赤い!赤い!
投稿者:jiro (1)
短編
2021/01/08
18:26
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「赤い!赤い!」
と弟が喚き出したのだ。
「赤いって何?!」
流石に怖くなった私は弟に向かって必死で問いかけた。しかし弟は「赤い!」と喚くばかり。
「ねね、赤い!」
(当時弟はお姉さんや女性のことをねねと言っていた)
弟の指差す右奥には何も見えないものの
何かよく分からない異様なものが
私達をじりじりと包んでいくような気がした。
「赤い!赤い!」
それを聞いた私はその異様なものを振り払うようにもう一度弟を抱えると恐怖のあまり部屋を飛び出し、廊下を駆け夕食会場に息を切らしながら戻った。
それからは一部始終を話したが、笑いながら気味悪がるだけで特に部屋を変えることもせず、その後何があるわけでもなくその旅館を後にした。
帰りの車内、遠ざかる旅館を眺めながら弟がポツリと零した
「ねね、一緒に帰ろうね」
その言葉は私に向けられたものなのか、
はたまた得体のしれない何かに向けられたものなのかは未だに分からない。
弟はもちろん当時のことは覚えていない。
現在もその旅館は営業しているようだ。
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