追いかけてきたもの
投稿者:kenbou (1)
そしてそのまま下り続け、何本か急なカーブを曲がったとき。
さっき見た、すれ違った憶えのないジョギング中のような人影をまた追い越したのです。
一瞬でしたが、さきほどと同じような背格好、同じような色のシャツを着た背中。
Kが「おい、さっきの…」と言いかけました。
横目で車載の時計を確認すると午前1時40分とか、そのぐらいだったと記憶しています。
ジョギングにしては時間が早すぎます。
Kは助手席でしたが、視線を伏せて黙っています。
後部座席のY香は泣きそうな顔でした。いろいろ察したのでしょう。
Sちゃんも相変わらず無表情で黙ったままです。
「またしばらくして、同じヤツを追い越したらどうしよう」と思い、
内心怖くてたまりませんでしたが、なんとか平静を装い、運転を続けます。
カーブのたびに生唾を飲み込み、心の準備をしていましたが、幸いと言うべきか、
それからはふもとの大きな道まで何も起きず、無事にたどり着きました。
もういちどあの、青シャツのジョギング男が現れていたら。
…そして正面から顔を見てしまっていたら。
冷静に運転を続けられていたか、自信がありません。
展望台に向かった当初は、帰りにそれぞれの下宿まで送っていく話になっていましたが、
誰が言うでもなく大きなバイパス沿いのファミレスに入り、そのまま4人で朝まで過ごしました。
十分明るくなり、KとY香を下宿に送り届けた後、Sちゃんに
「実は…」と昨夜あったことを打ち明けたのですが、その後のSちゃんの言葉で
一気に血の気が引きました。
「山のトイレにいた時からずっと見えてたよ。入ってこられそうになったからトイレから出たけど」
「帰りもずっと付いてきてたと思う」
「あと背中って言うけど、ずっとこっち睨んでたから。目を合わせちゃいけないと思って」
「見た目はオジサンだったよ。っていうかさっきまで店の外、そこ、ほら、そこにいた」
…それ以来、その展望台には、足を運んでいません。夜の山も苦手です。
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