街灯があるとはいえ、階段だって全部は見えないのですが、なぜかその「人」だけは、
闇の中から人の形を浮き彫りにしたように存在を認識することができたのです。
「うそだろ?誰かいたのを見逃したのか?」
と思いました。
駐車場、トイレ、展望台へ続く階段は幅広ながら一本道で、
誰かとすれ違えば絶対にわかります。
なにより誰かが階段に座っていたのなら、私より先に展望台に登っていったKたちが
気付いて避けるはず。
携帯を確認すると、時計は午前1時7分と表示されています。
そうそう人が出歩く時間でもありません。
このときに初めて「ゾッ」としました。
…アレは人ではないかもしれない。
恐る恐る階段を振り返ると、その人影らしきものは消えています。
人間が移動した気配はありませんし、携帯を確認するために、その「人」から目を離してから、
再度階段に目をやるまでは1分もなかったはずです。
「見間違いだよな、あり得ない」と無理やり自分を納得させて辺りを見回すと、
いつのまにかSちゃんがトイレから出て、真っ青な顔ですぐそこに立っていました。
「帰ろう…」
もちろん私も異存はありません。嫌な冷汗を背中にかいているのがわかりました。
電話で展望台のKたちを呼び出すと、いい雰囲気だったらしくイヤミを言われましたが、
カラオケでお酒を飲んでいなくて、運転できるのが私だけだったのでしぶしぶ納得してくれました。
山上からふもとへ、来た道を戻るのですが、曲がりくねった山道の途中でそれは起きました。
ヘッドライトで照らされた細い道路の脇に、ジョギング中らしい人の姿が浮かび上がったのです。
青だか黒だかのシャツの背中がはっきりと見えました。
山頂とふもとを行き来するメインの道は1本しかないのです。
背中が見えるという事は、この人は山上、つまり展望台側から下ってきたことになります。
もちろん、我々は途中で誰ともすれ違っていません。
先ほどのこともあったので、深く考えないことにして、さっさと追い抜きました。
K達も変に思ったのか、何か言いたそうな顔でしたが、黙りこくっています。
Sちゃんも相変わらず青い顔のままでした。






















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