防空壕の青年
投稿者:音松 (11)
短編
2021/12/20
15:33
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私が小学生低学年のとき、家族と一緒に観光として防空壕に行きました。
防空壕とは空襲から身を守るため地面を掘って作る待避所のことです。
防空壕の中は子どもながらに、暗くてジメジメとした場所だなと感じていました。
遠くは真っ暗で先が見えず、壁は手彫りでゴツゴツとしていました。観光している間は特にこれといって、怖い思いをすることはありませんでしたが、その暗闇の先はどうなっているのだろう、とぼーっと閉鎖された先を眺めていました。
家に帰ってから、翌日、見えるのです。
そこにいるのがわかるのです。
黒い学生服のようなものを着て、帽子を被っていました。
顔は見えませんでした。不思議と私は驚きませんでした。
怖いとも思いませんでした。
彼が見えるようになってからは1週間くらいずっと近くにいました。
何をしてくるわけでもなく、ただ立っていました。
絵のようにも感じました。私が意識せず、パッと見上げるとそこに立っています。
私の頭の中にいたと考えることもできますが、とても見える期間が長かったので、これは妄想の類いではなかったと思います。
あとにも先にもこのような経験はこの一度だけです。彼はあの防空壕に今もいるのでしょうか。
なにか、言いたいことがあったのでしょうか。
私にはあの青年が穏やかに成仏したことを願うことしかできません。
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