エリコちゃんとの思い出
投稿者:LAMY (11)
──と、ここで話が終われば平和だった。
しかしこの矢田さんという男は思いがけず舞い込んできたミステリーに一人でテンションを上げてしまったらしく、翌日こんな電話をよこしてきたのだ。
『地元に残ってる奴らに電話したらさ、何人かエリコちゃんのこと覚えてるやつがいた。
お前まだしばらくこっちに居るんだろ? そいつらも呼んでどこかで飲もうぜ』
エリコちゃん=座敷わらしのようなもの、という結論にしみじみしたものを感じていたのが馬鹿らしく思えるような温度差だったが、特に断る理由もないし、何十年というレベルで会っていない当時の同級生と再会出来るというのはそれなりに魅力的に感じられた。
参加する旨の返事をすると日取りは矢田さんにより段取りよく決定されて、二人を含めて五人ほどのメンバーで個室居酒屋に入って飲み会をする運びになった。
いわゆる和風ダイニング系の室内で再会したかつての同級生たちは誰も彼も自己紹介なしでは名前がわからないほどだった。
最初は少しやり取りによそよそしさが目立ったが、元々こんな突然の誘いに飛びついてくるような奴らである。すぐに緊張も解け、数十年の月日を感じさせない親しげな会話で盛り上がり始めた。
やれ今はどこに勤めてるだとか、宝くじが当たってマンションを買っただとか、各々のエピソードトークに花が咲く飲み会は率直にとても楽しかったそうだ。
だが矢田さんが「エリコちゃん」の話題を出すと、内の一人が露骨に顔を曇らせた。
『……エリコちゃんのことは俺も覚えてるけどさ。俺は正直気味悪いよ。
だって俺、矢田から電話で言われるまであの子のことなんて忘れてたんだぞ?
卒業してからたぶん一回も思い出したことなかったんだよ。なのに矢田からその名前聞いたらさぁ、急に今まで綺麗さっぱり忘れてたもんがぶわっと溢れ出してきたっていうか……』
ずじ、とウイスキーを一口含みながら言ったその言葉に、場の雰囲気が少し重くなったという。
「言われてみればそうだな、って思ったんです。
私もね、あの日アルバムを開くまで……エリコちゃんのことをずっと忘れてました。
おかしいですよね。初恋の相手のことなんて、どこかで話のネタにしてても良さそうなのに」
けどエリコちゃんは可愛かったよな、と。
空気を変えようとしてか矢田さんがそう言うと、彼の目論見通り場はなんとなく和んだ。
エリコちゃんに対する恐れの念を吐露した奴も気付けば「あの子はな~。可愛いのもそうだけど人懐っこいのがずるかったよな」なんて言っている。
一瞬不穏な色を帯びかけた場はすっかり”幼い日の不思議な友達”との思い出を語らう優しいそれになり、酒も進み、皆の酔いが回ってきた頃だった。
『なあ、あの子の絵を描いてみないか』
矢田さんはそう提案すると、メモ用紙と人数分のボールペンをカバンから取り出した。
もちろん本格的な絵を描こうというのではなく、酒の席でのちょっとしたお遊びだ。
もし描いたエリコちゃんの姿がみんな一致したならやはりエリコちゃんは「いた」のだろうということになるし、違ったらそれはそれで謎が深まってまた会話のネタが増える。
皆特に嫌がるでもなく紙とペンを受け取り、さらさら、とペンを走らせて。
全員が絵を完成させたのを確認して、いっせーのーせ、でテーブルの上にそれを出した。
「まあ……やっぱりいたんでしょうね、エリコちゃんは。みんな同じ絵を描いてましたよ」
面白かった
エリコちゃんは、妖怪?
にしては力が強すぎる!
ゾワッとしました
私もエリコちゃんは妖怪なのかなと思いました
百々目鬼?みたいな
凄く読みやすくて引き込まれました
北海道ということは妖精みたいな?コロポックルとか?違うか…
Eee
ここ数年で一番面白い
全員違う姿を描くのかと思いきや‥
まさかの展開ですごく面白かったです
「にんまり」という笑顔の表現は良いイメージにならないので、語り手さんも何かしらの違和感は感じていたのかもしれませんね‥
こ、これは恐い…ガクガク((( ;゚Д゚)))ブルブル
ぬ~べ~!?
ためはち
オチがコワイです
百目
どちらに転ぶかというオチまでの流れ、引き込まれて想像してしまう。めちゃくちゃ上手です。最高
怖すぎる。
一人暮らしなんだけどパキっとか音がしただけでビクビクしてまうがな。
嫌だなぁ
2024年10月19日 こんなに興味深い話、ひさしぶりでした。各々がエリコちゃんの絵を描いている時までエリコちゃんの異形に気づかない、せぇのと、見せあった時、魔法が解けて怪異を目の当たりにするなんて…エリコちゃんはみんなの思い出の中で美しい思い出のままでいたかったはず。
何も悪さしない子なのに、話の流れで怖く感じさせるところがすごい
ゲジゲジみたいに、見た目害虫で実は益虫ってことで
((((;゚Д゚)))))))