田舎の「狐にだまされる」という話
投稿者:廉 (8)
母の生まれた田舎には「狐にだまされる」という話があります。
小さな子供が狐に誘われて山中に入り、胸まで泥に浸かって遊び、帰って来るという伝承です。
母は十人兄弟の末子ですが、姉の一人だけ、何度も「狐にだまされて」山中へ行き、泥遊びをしていたそうです。
姉はいつも「山で友達と遊んでいた」と楽しそうに笑っていて、病院に連れていっても何の不具合も無く、ぐっすり眠って起きると「遊びに行った」事を忘れました。
夕暮れから夜、夜中に居なくなり、いつも胸まで泥に浸かり裸足で帰って来たそうです。
田舎の事ですから噂はあっという間に広がります。姉が泥だらけでふらふら歩いているとすぐに家へと知らせが入り、父や兄が迎えに行くのですが、道で見付かるまで何処から歩いて来たのか分からず、姉も「山の中」としか覚えていませんでした。
「どこで遊んでいたの?」
「山の中のすごく奇麗な場所!楽しかった!」
「誰と遊んでいたの?」
「友達」
「どこの子?学校の友達?」
「わからない、でも友達」
父は姉を連れて神社へ行き、何かをしてもらったそうですが幼い母には知らされませんでした。
近隣の者たちも沼地や姉が残した靴などを探しましたが見付けられませんでした。
姉は数年に一度山へ誘われ、十三歳を最後に行かなくなりました。
その年になれば物事の判別は付くはずなのですが、本人も首を傾げてわからないと言い、眠ると忘れてしまったそうです。
姉の前にも後にも同じように子供が居なくなる事があり、その度に警察へ通報して一緒に探してもらうのですが、いつも見付けられないまま数時間が過ぎ、気が付けば泥だらけで家の近くの道を歩いていたそうです。
母の祖母が幼い頃からあった出来事のようですが、平成に入ると聞かなくなったそうです。
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