みんな見えないのに
投稿者:廉 (8)
これは私の身に実際に起こった、もう何年も前のお話です。
私の母は、長年うつ病を患っていた。その症状のせいもあるのか、いつからか怒鳴りあうような喧嘩が増え、
私が中学三年生になるころ両親は離婚。母はその後再婚していた。
だが再婚後も母の病状は悪化する一方であったらしく、その後母は、自ら命を絶ってしまった。
私の周りは、「霊感」というものを強く感じる人が多くいた方だったかと思う。
お通夜の時、長年付き合いのある母の唯一の友達に会った。彼女も先に話した「霊感」というものを強く感じるその一人だった。
何気なしにふと、「見える?」と聞いてみた。彼女はハンカチで涙を拭いながらこう言った。
「ごめんね。近くにいるのは感じる気はするんだけど、昔から自分の家族とか、仲の良かった人って何故か見えないの。」
そう言ってまた涙を拭っていた。
父は、頑なに式場には来ようとしなかった。
「いくら元妻といえども、もう再婚していて旦那もいて。そんなところに流石に顔は出せない。」
そう言ってまるで来る気配のなかった父から、お通夜の開けようとしている早朝、電話があった。
内容は、一言。「式場の場所はどこか。」それだけ聞いて続けてもう一言。「今から行くわ。」
驚きはしなかった。何故なら、私の周りで誰よりも霊感を強く感じるのは、圧倒的に父だった。
式場に着いた父を入口まで出迎え、母のもとへと案内した。
「呼ばれたの?」
はたから聞けば不思議な会話であるだろうなと思う。
「行かない。ってずっと言ってんのにさ、なんでなんでってずっと離れてくんなくて、根負けして来たんだわ。」
改めて言うが、母は亡くなっている。まるで普通の会話をしているようだが、父の言うそれは、既に亡くなっている母の言葉。
同じことを聞いてみた。
「見える?」父は答える。
「なんでかなあ…すぐ後ろで泣いてるのは分かるんだよ。でも、でもなんでか姿が見えないんだよ。」
母の友と、まるで同じことを言った。
その後父は、「顔、ちゃんと見に来たからな。」そう言って仕事に行くと告げて、式場を後にした。
仕事に行く前に、父は道中コンビニに寄ったらしい。
行きつけでも何でもない。ただふと寄ったコンビニ。
会計の際に対応してくれた中年の男性店員に言われた一言に、父は目を見開いたという。
「大変でしたね。」
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