お見合いの電話のおかげで……
投稿者:廉 (8)
ある日曜日の昼。スーパーへ買物に行こうとしたら電話が鳴った。叔母さんからだった。
「母さん、電話だよ」
そう言って母へ代わり、家を出ようとしたら母が呼び止める。
「姉さんがあんたと話したいって」
「えええ?」
今までそんな事は無かったのに、どうして今日に限ってと思ったが電話に出た。
「もしもし」
「あんたもうすぐ三十歳だろ?付き合ってる人は居るの?もし居ないから紹介するよ?」
「ああ……ええと……」
そういう話かとうんざりした。適当に濁して母にかわろうとしたが、叔母は執拗に諦めない。このままでは見合いを約束させられてしまうと恐怖を覚える頃、テレビを見ていた母親が声を上げた。
「火事!火事よ!」
「は?え?火事?何処が?」
慌ててテレビを見ると、スーパーに行く途中に通る商店街が煙にまかれて黒煙を上げていた。もしも電話に出ずそのまま外出していたら、今頃は煙に撒かれて混乱の中に居ただろう。
「え?火事なの?大丈夫なの?」
慌てる叔母にテレビの話だと説明した後で母と交代した。
外出する気分ではなくなったので部屋に戻り、夕方になって降りて来ると母が言った。
「姉さんね、あんたが一人で寂しく老人ホームを探してる夢を見たんだって。それで電話して来たみたい」
「ああ、なるほど。だからしつこく見合いを勧めたのか」
「そうそう。でもほら、そのおかげで火事に巻き込まれなかったし、こういうのも虫の知らせって言うのかしら?」
「どうだろ、わかんないけど、とりあえず叔母さんには何か送っとくわ」
「そうね」
火事はニュースで放送され、死人こそ出なかったが重軽傷者は多数出た。
叔母からの電話がなければ今頃は病院に居ただろう。
「おばさん、ありがとうございました」
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