“ナニカ”のおかげ
投稿者:二槽式 (6)
この話は、私が小学校一年生の時、実際に体験したことです。
その日、小学校からの帰り道は、酷い雨が降っていました。
私は途中の道でいつも一緒に帰る友人と別れ、段々と強くなっていく雨に嫌気がさし、びちゃびちゃになった靴の気持ち悪さに半泣きになりながらも、いつもより早歩きで俯きがちに、自宅への道を黙々と歩いていました。
酷い雨の中、いくら傘を差していても足元は水浸しで体も冷え、それに比例するように気持ちもどんどん沈んでいくようでした。
歩きなれている通学路のはずなのに、土砂降りのせいで見通しが悪く、何だか全然知らない場所を歩いているようにさえ思えてきました。
あと一〇分も歩けば家に着く、と必死に自分を励ましていた時です、交差点に差し掛かり、道路を渡ろうとしていた時にそれは起こりました。
左右を確認し、車が来ていないと思った私が道路を渡ろうとしたら、突然、背負っていたランドセルを強い力で引っ張られたのです。
力に負けて尻餅をつき、何が起きたのか分からず呆然としていた私の目の前を、一台の車が走り去っていきました。
私は、あまりの驚きで数分ほど座り込んだままでしたが、突然後ろから聞こえた車のクラクションの音に、ハッと振り返りました。
ヘッドライトの眩しさに目を細めながらも、じっと車を見てみると、運転席から祖母が心配そうな顔でこちらを見ていました。祖母は私の側に静かに車を止めると、窓を開けて私に車に乗る様に言い、車に乗った後も、座り込んでいた私に、何かあったのかどこか怪我でもしたのかと心配そうに言いました。
私は、祖母のその言葉で、やっと実感したのです。
私が歩いていたところは、住宅街の狭い道路で、普段はそれほどスピードを出して走る車はいません。
酷い雨の中、ヘッドライトを点灯していない車は見えづらく、雨音で車の音も聞こえづらい状況でした。
私はあの目の前を走り去って行った車に、一切気付いていなかったのです。
もし、あの時、“ナニカ”にランドセルを引っ張られていなかったとしたら、私は、あのまま轢かれていたのではないかと。
未だに、あれは何だったのか、私にはわかりません。
しかし、あの“ナニカ”のおかげで、私が助かったのは確かなのです。
怖いというより有難いこと。御先祖様ですかね。