財布から聞こえる奇妙な声

私は以前、洋服の販売員をしていたことがありました。
当時は本当に働き始めたばかりのペーペーで、よく失敗しては怒られていました。

販売員をしているとお得意様のようなリピーターのお客さんがたまに現れたりするんですよね。
その人はすごくお金持ちそうな装いのお上品なおばさまで、よくお店に来られていました。けれど一つだけ不思議なことが。その人がレジで買い物をするときに、高い確率で不思議なことが起こるのです。

最初に声を聞いたのはこのお客さんがレジで品物を購入したときでした。
お財布を出しているときに、ちょっと高めの電子音みたいな声で、「小っちゃいサイズで～！」という声が聞こえたのです。

私はこの声に答えて「申し訳ないですが、そちらはSサイズまでしかありません。」と答えました。
SSサイズをご所望なのかと思ってそう答えたのですが、「え？」とこのお客さんに怪訝そうな顔で見られて困ってしまいました。話し方もそのおばさまには不似合いで声もおかしかったし、最初は新しい仕事の疲れからくる聞き間違いかと思って、笑顔で誤魔化してやり過ごしました。

しかし、それからお客さんがレジで買い物をするときに度々、「小っちゃいサイズで～！」と言われるのです。
一時期は何かおもちゃでも隠し持っているのかと思ったり、揶揄われているのかと勘違いしたこともありました。しかし、その声はいつも財布を取り出したときに聞こえてくるのにお客さんはまるでその声が聞こえてないような反応をするのです。声が声だけに怖いという印象はなかったですが、毎回不思議でたまりませんでした。

そうこうしている内に、またあのお客さんが。そして出した財布がいつもの高級そうだけど年季の入った茶色の財布から黄色の派手な財布に変わっていました。「財布変えたんだ～」と声には出さずに内心思っていたんですが、次の瞬間私はいつもと違う声を聞いてしまいました。「●●のサイズで…」というひび割れた男の声。何を言ったのかはきちんと聞き取れませんでしたが、今までとは違って心底ゾッとしたのを覚えています。

この声を聞いてから、あのお客さんの姿をぴたっと見なくなりました。その後お客さんがどうなったのかは知りませんが、最後に聞いたあの声はなんとなく今までと違って悪いものだったような気がします。あの声は一体何のサイズの話をしていたのか気になるし、また怖くて一生知りたくないとも思います。