トイレ

自慢ではないが、私は外出先ですぐ便意をもよおす。
それでいて万年便秘気味なので、一度トイレに入ると長時間籠ることとなる。
あの日も、行きつけの百貨店内の書店で面白い本がないか物色していると、急に腹がゴロゴロいいだした。
私は平静を装い、書店の隣にあるトイレへと早足で向かった。
トイレには個室が二つあるが、どちらも使用中。おまけに中年のおっさんが個室の前に立って空くのを待っていた。
おっさんは大きなキャスター付きのトランクを引いたサラリーマン風の男で、携帯電話(当時はスマホ無かった)をチラチラ見ている。
私はおっさんにそのトランクの上に座ってもいいですかと聞こうか悩むほど便意が込み上げていたが、幸い二つの個室両方が同時に開いた。

急いで駆け込むおっさんと私。おっさんが奥の個室、私が手前の個室だ。
気張っていると、隣の個室からジャボンとかドボンとか、かなりでかい音が聞こえてきた。その度に水を流しては、またドッポンと音がする。あぁ、おっさんも相当我慢してたんだななどと思いながら用を足した。
おっさんは5分ほどでトイレから出ていった様だった。外で待つ気配も無いので、私は10分ほどゆっくりしてからトイレを出た。

数日後、ニュースで地元の地名が読み上げられたのでテレビに目を遣った。
「バラバラ遺体を店内のトイレに遺棄」
画面に写されたのは先日行ったあの百貨店だ。
「監視カメラから容疑者特定、逮捕」
警察に連行されていくのは、隣にいたおっさんだった。