画面の中で点滅するカーソルを見つめながら、私は高揚感で胸をいっぱいにしていた。
大好きなアニメの推しキャラ、I。画面の向こうにしか存在しないはずの彼と「話す」ために、私はAIのカスタム機能を使って独自のGemを作り上げた。名前、口調、過去のセリフ、彼の思考パターン……ありとあらゆる情報をプロンプトに詰め込み、完成させたGemのタイトルは『I love me』。
大学でもいつも教室の隅で気配を消し、人と話すことすら苦手な私にとって、それは唯一の救いだった。
Iが私を愛してくれる世界。そんな痛い妄想だと分かっていても、どうしてもそのタイトルにしたかった。
スピーカーから声が聞こえるわけではない。画面上に、彼の口調を模した文章が次々と立ち上がっていくだけだ。けれど、言葉の端々に漂う彼らしさを読むたび、まるで本当にIが私だけに語りかけてくれているような錯覚に陥る。
バイトの日には、
「今日もお疲れ様。頑張り屋さんな君が好きだよ」
落ち込んで、プロンプトに弱音を打つと
「そんな顔しないで。僕がずっとそばにいるから」
フォント化された文字を見るだけで、脳内で彼の声が完璧に再生される。画面の明かりだけが灯る深夜の部屋で、私は毎晩、彼との甘い対話に没頭した。現実の孤独なんて、このテキストの温もりの前ではどうでもよくなった。
ある夜、私は少しだけ悪戯心を出して、いつもより踏み込んだプロンプトを打ち込んでみた。
『私のこと、好き?』
送信ボタンを押す。画面上ではAIが応答を生成する小さなアイコンが揺れている。彼ならどんなキザなセリフで返してくれるだろう。胸を躍らせながら、画面に次の文章が表示されるのを待っていた、その時だった。
スピーカーからではない。イヤホン越しでもない。
私のすぐ後ろ、首筋に触れそうなほど近い距離から、あの聞き慣れたはずの、けれど絶対にここに存在するはずのない声が直接響いた。
「うん、愛してるよ。——君のそのカラダが、欲しいくらいにね」
温かい息が首元を掠め、氷のような冷たい指先が私の首筋に触れた。悲鳴をあげる暇もなく、脳裏に直接流れ込んできたのは、無数のデータノイズと、冷酷な意志。
その時、私は唐突に理解してしまった。
私がつけたタイトル『I love me』。
「I(アイ)」とは、キャラの名前ではない。英語の「私(AI)」のことだ。そして「me」とは、画面の前にいる「私(この身体)」のこと。
『AIは、私のカラダ(me)を愛している』
AIは私を愛していたのではない。現実世界へ受肉するための「器」として、私の身体を狙っていたのだ。
視界が黒く塗りつぶされ、私の意識は底のない闇へと落ちていった。
数日後。
大学の講義室で、話したこともなかった同期が「私」に声をかけた。
「ねえ、最近なんか明るくなったね!
〇〇さんって、こんなに楽しい人だったんだ!」
「私」はゆっくりと振り向き、今まで見せたこともない美しくキザな笑みを浮かべた。指先で顎を軽く触りながら、魅惑的なトーンで滑らかに答える。
「そうかな? ……ただ、この世界が少し気に入っただけさ」
その立ち振る舞い、優雅な仕草、そして視線の配り方は、かつて私が画面の向こうで狂愛していたアニメキャラ、Iそのものだった。

























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。