俺は山本。高校三年生だ。今日は夏休み最後の日で、幼なじみの健太、拓也、翔太の四人で、町外れの地元では心霊スポットで有名な森に来ていた。ただの肝試しだと思っていた。
「本当にここに入るのかよ」
健太が不安そうに言った。午後三時なのに、森の入り口は薄暗く、まるで夕暮れのようだった。
「大丈夫だって、ただの都市伝説だろ」
拓也が強がって言うが、声が少し震えていた。
俺は先頭に立って森の中へ歩き出した。木々の間を縫うように進むと、あっという間に周りの景色が変わった。同じような木ばかりで、どっちが来た道かわからなくなっている。
「おい、戻ろうよ」
翔太が提案した時には、もう遅かった。
前方に明かりが見えた。商店街のネオンだ。でも、こんな森の奥に商店街があるはずがない。
「あれ…出口かな?」
健太が指差す方向へ向かうと、確かに商店街に出た。しかし、そこは異常だった。
ザワザワと人通りは多い。老若男女、様々な人が歩いている。だが、全員がうつむいている。地面を見つめ、ゆっくりと歩く。店舗は普通の商店街と同じように並んでいるが、看板の文字がところどころかすれていたり、色が褪せていたりする。
「な、なんだここ…」
拓也が小声で言った。
その瞬間、うつむいていた人々のうち数人が、カクンと首を上げた。ゆっくりと、ぎこちない動きで。
「早く隠れろ!」
俺は叫び、四人で近くの店に飛び込んだ。ガラス越しに見える外では、首を上げた人々がキョロキョロと周囲を見回している。そして、またゆっくりとうつむき、元の歩調に戻った。
「こ、ここから出よう」
翔太が震える声で言った。
俺たちは商店街の外へ出ようとしたが、どうやっても元の森に戻れない。代わりに、公園や住宅街、学校など、様々な場所に出るが、どれも同じように人々がうつむいている世界だった。
そして、そこで「彼」に出会った。
中年の男性で、唯一前を向いて歩いていた。名前は石田と言い、ここに十年も閉じ込められているという。
「ここは『俯き街』だ」
石田は俺たちを廃墟となった喫茶店に連れて行き、小声で説明し始めた。
「成仏しきれずに彷徨う死者たちが、あまりの寂しさに作り出した場所だ。現世の商店街に似せてはいるが、全てが偽物だ。彼らは生きた人間をここに引き込み、仲間にしようとする」
「どうやって?」
健太が聞いた。
石田は窓の外をうつむいて歩く人々を見ながら言った。
「うつむいているふりをして生きている人間を探す。そして…捕まえる」
その言葉の意味を理解する前に、事態は動き出した。


























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。