俺には、時間を止める能力がある。
ただし、条件がある。カメラに映っているとき。誰かに強く意識されているとき。そういう状況では、俺の体は動かなくなる。理由はわからない。世界が辻褄を合わせようとする、そういうことなのだと思っている。
子供の頃はその力でずいぶん得をした。少し成長してからも、金に困れば通りすがりの財布から少しだけ拝借した。一度もバレたことはない。
今日は大事な取引がある。これが上手くいけば、もうこんな綱渡りの生活とも縁が切れる。そんな日だった。
だからだろうか、ぼんやり歩いていたらしい。気づけば信号を無視して横断歩道に踏み出していた。右から、車が迫ってくる。
問題ない。今まで何度も、同じように切り抜けてきた。
俺はいつも通り、時間を止めた。
……動かない。
嫌な感覚がして、周囲を見渡した。
一人、スマホをこちらへ向けている。
それだけじゃなかった。
横断歩道の両端。歩道。信号待ちの車の中。
全員が、俺を見ていた。
誰も動かない。誰も声を上げない。ただ、じっと。
動けない。このままでいる限り、時間は止まったままだ。でも、時間を動かせば——
誰か一人でいい。目を逸らしてくれ。
……なあ。
俺は、どうしたらいい。
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