奇々怪々 お知らせ

心霊

saraさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

指切峠
短編 2026/02/23 12:12 92view

北関東の山深く、地図から抹消された古い峠道がある。地元では「指切峠」と呼ばれ、決して近づいてはならない場所とされていた。その名の由来は、かつて飢饉(食べ物が不足して人々が苦しむ状態)の際、口減らしのために我が子の指を切り落として山に捨て、二度と里へ戻れぬよう「約束」をさせたという陰惨な伝承にある。

大学生の木村は、オカルト仲間の三人と共に、肝試し半分でその峠を訪れた。時刻は深夜2時。街灯ひとつない峠道は車のライトが吸い込まれるほどに暗い。やがて、道が細くなり車が進めなくなった場所で、彼らは車を降りて徒歩で進むことにした。「おい、あれ…なんだろ…」仲間のひとりが指差した先には、朽ち果てた古い地蔵が並んでいた。しかし、その地蔵にはどれも「右手の薬指」だけが欠損していた。不気味に思った木村が「もう帰ろう」と口にしたその時、霧の向こうから「カチ、カチ、カチ」と硬いものがぶつかり合うような奇妙な音が聞こえて来た。音は前方、道が大きく湾曲した先から近づいてくる。暗闇の中から現れたのは、ボロボロの白い着物を着た異様に背の高い女だった。女は膝を折らず、竹馬に乗っているような不自然な歩き方でこちらへ向かってくる。そして、すれ違いざまに彼女が発している音の正体が判明した。女は、自分の左手の指を一本ずつ右手の爪で噛み切り、吐き捨てていたのだ。「ヒッ…」悲鳴を上げた木村たちは、一目散に車へ向かって走り出した。背後からは「カチ、カチ、カチ」という音が、猛烈な勢いで追いかけてくる。女は走っているのではない。四つん這いになり、骨を軋ませながら地面を滑るように迫っていた。どうにか車に飛び乗り、木村はアクセルをそこまで踏み込んだ。バックミラーには、暗闇の中に立ち尽くし、欠けた指をこちらへ突き出す女の姿が映っていた。「…逃げ切ったか」山を降り、人里の灯りが見えた頃、車内の緊張が解けた。「なあ、約束…しちゃったかな」見ると、彼の右手の薬指に、細い「赤い糸」が巻きついていた。糸は彼の皮膚に食い込み、まるで肉を切り裂こうとしているかのように赤黒く変色していた。「なんだよこれ、外せよ!」木村が手を貸そうとしたが、糸は触れることさえ出来ない。まるでそこには何もないかのように、指が糸を透過してしまう。しかし、友人は激痛にのたうち回っている。その時、締め切った車内にあの音が響いた。

「カチ、カチ…」音は、車の天井から聞こえてきた。見上げると、サンルーフのガラス越しに、あの女の顔が張り付いていた。女は窓ガラスを、切り落とされた指の断面で「トントン」と叩きながら、ニヤリと笑った。「ユビ…キッタ…」

女の声が直接脳内に響いた瞬間、友人の薬指が根元から音もなくポロリと床に落ちた。切り口からは血の一滴も出ず、ただ真っ黒な煤のようなものが溢れ出している。パニックに陥りながらも、木村たちは命からがら街の大きな神社へ駆け込んだ。夜勤の神職に事情を話し、友人たちを祈祷室へ運び込んだが、その後のことは誰も語りたがらない。唯一分かっているのは、その翌朝木村が自分の部屋で目を覚ました時、枕元に「古びた紙包み」が置かれていたことだけだ。震える手で包みを開けると、中には枯れ木のように干からびた、幼い子供の指が一本入っていた。そしてその指の付け根には、木村の名前が記された古い紙片が、釘で打ち付けられていたという。

あの日以来、木村は夜、寝ている間に「誰かが自分の指の数を数えている気配」で目が覚めるようになった。「いち、に、さん…」数える声は、回を追うごとに鮮明になり、最近ではその声が自分の口から出ていることに彼は気づき始めている。

1/1
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。