「蠅とコインロッカー」
大晦日、私は実家に帰省していた。実家はその立地から様々な親戚が集まり、毎日パーティーのようだ。
そこで私は知らない人がいるのを見た。彼は酷くやつれ、顔にはシワとシミがあり、目つきは常に鋭く恐ろしく、体には蠅がたかっていた。そして彼は常に無言だった。
そして彼は、一人の可愛い女の子を連れていた。名前はマイちゃん。2歳の子供で、大きな目が特徴的だった。
彼はマイちゃんの前であろうと気にせず、母が作った手料理を汚く食べ、机を汚していた。正直、みんな鬱憤が溜まっていたと思う。マイちゃんはわたしと一緒にご飯を食ったのだが、小さいながらに見下すような顔で彼を見ていた。
私はそんなマイちゃんとすっかり仲良くなった。家にいる間はずっと彼女と話し、一緒にテレビを見て、共に観光地を散歩した。
マイちゃんはおままごとが大好きだった。アンパンマンのキッチンで懸命におもちゃのスープを料理し、キラキラした目でこちらにそれを提供する。マイちゃんはまさに父親とは違い、清純で可愛らしい年相応の女の子だった。
マイちゃんとおままごとをしている時、私はある違和感に気づいた。彼女の腕に、無数のあざがあるのだ。2歳の子供はわんぱくとは言えど、ここまでの怪我はありえないだろう。
私はふと椅子に座るマイちゃんの父を見た。彼は恨めしそうに、見下すようにこちらを見ていた。マイちゃんはそれを見て怯えるように私に縋ったが、男は私からマイちゃんを奪うようにして連れ去り、部屋に戻っていった。
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そしてついに家に帰る日が来た。そして私が家を出る1時間前に、あの親子は家を出ていった。
親子が家を出た時、私はひっそりと母に、あの親子が誰なのかを聞いた。母はこう答えた。
「そんな人知らないわよ」
と。母によると、今年家に来たのは私と弟しかいなかったのだそうだ。弟も父も、その家族を知らない様子だった。それどころか私を心配し、病院に行くことさえ勧められた。
私は不安になり、帰省から帰ったらじっくり休もうと考えていた。が、どうしてもマイちゃんの顔とあのあざを偽物だとは思えず、妙な胸騒ぎがした。
私は弟と共に駅へ向かった。すると弟が、コインロッカーに荷物を預けているのを忘れていたと言うので、私は一緒に着いて行った。
弟が彼のコインロッカーを開けた。
その瞬間、私は吐き気を覚えた。駅中に圧倒的な腐敗臭が漂い、あまりの残酷さに私は後ろにのけ反って転んでしまった。
コインロッカーの中にいたのは、マイちゃんだった。正確には、詰められていた。
彼女は死んでいて、腐っていた。鼻血を出し、一部がバラされたまま、悪趣味にも体育座りでロッカーに放置されていた。彼女には蠅がたかっていた。
だが、弟はそれを気にせず荷物を取っていた。私は弟に必死に聞いた。あれが見えないのかと。
「あれってなんだよ」
弟は真剣で、かつ嘲笑するように言った。弟にはマイちゃんの死体は見えていなかった。
私のリアクションから、ゾロゾロと人が集まってきた。が、彼らは皆マイちゃんが見えないようだった。
私は慌ててトイレへ駆け込もうとした。そしてその瞬間、誰かが私に足をかけて転ばせた。また観衆がざわめいた。
私が犯人の顔を見た。そいつはマイちゃんの父親で、あの時のように、蠅を見るような目でこちらを見ていた。私はその時初めて彼の声を聞いた。
「チッ」
その瞬間、フッと男は消え、コインロッカーからマイちゃんも消えていた。
そのあとは、何も知らない弟に連れられ、電車に乗り、家に帰った。今となっては、不思議とマイちゃんの顔が思い出せない。
























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