短い話をひとつ。備忘録のようなものです。
私が小学四、五年生の頃の話です。 その当時、私たち家族は少し山の方に住んでいて、スーパーなどのある街までは車で十五分くらいかかる、そんな場所でした。田舎の小さな小学校で、当時は私以外に同級生は一、二名しかいない、そんな生活でした。
その日は参観日で、父が授業を見に来ていたんです。クラスの人数が少ないため、私が目立てるチャンスです。というか、ほぼ私しかいないので当然ですが。すぐ後ろに父がいる状況に舞い上がって、いいところを見せるつもりが、逆に授業態度が悪くなってしまいました。そのせいで、父にこっぴどく怒られることになりました。
学校が終わり、スーパーへ夕食の買い出しに行くため、私と弟と父の三人で車に乗り込みました。直後、運転席から父の怒号が響きました。父は優しいのですが、怒るとかなり怖いタイプで、私はしょぼくれつつも話を聞いていました。三つ下の弟は、自分に父の怒りが飛び火しないように、気配を消していました。
スーパーに行くには橋を越えていくのですが、私は怒られながらも、外の景色をぼんやり眺めていました。その橋が見えてきた時でした。 夕暮れ、といってもまだ明るさの残る橋の上に、一人の人が歩いているのが見えました。車がぐんぐんと近づいて、とうとう橋の上で、その人がどんな人かわかるくらいに近づきました。
――ああ、すれ違うなあ。 その瞬間、私は今までにないくらいドッと汗をかきました。父の説教の声が、一瞬聞こえなくなるくらいです。
橋の上にいた人物には、頭がなかったんです。 首の上から、すとん、となくなったようでした。車から一瞬見えたその人物は、全身黒い服装でした。肌まで黒いわけではなく、身にまとっているものが黒いと認識できました。まるで、近所を散歩しているように見えました。けれど、頭だけがぽっかりと、最初から当たり前のようにそこになかったんです。
走行する車窓から見たので一瞬のことですが、それでも見間違うほどの速さですれ違ったわけではありません。全身が総毛立つとは、まさにこのことだと思いました。本当に怖くて、一ミリも動けなくなり、振り返って確かめることもできませんでした。車は、橋を過ぎてスーパーへ入っていく。父はまだ怒っている。弟に尋ねたくても、弟は気配を消している。
私は、父の説教に返事をしつつも、「あれはなんだったんだろう?」と、頭の中はぐるぐるしていました。車が停車したタイミングで、父の怒りもようやく収まりました。ですが、この話をすると絶対にまた怒りに火がつく。そう思って、結局、橋の上の人の話はできませんでした。
帰り道にもその橋を通るのですが、私は怖くて窓の外を見ることができないまま、帰路につきました。
後日、その話を友達にすると、「普段から妄想ばっかりしてるから、幻覚でも見たんじゃない?」 と、あしらわれました。あの橋での曰くも、特に聞いたことがないとのことでした。
普段から妄想話を友達に話してばかりいると、いざ本当に不思議なことが起きても信じてもらえない。大人になった今でもたぶんそうです。

























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