正体は

数年前に友人から聞いた話。

久々に会った友人は以前とは別人のような風貌をしていた。
昔話を一通り終えてから、子供のことを話し始めた。

友人の子供でエリちゃんという娘がいた。
エリちゃんは小さい頃からロングエアーに憧れをもっていたらしく、大切に伸ばしていたそうだ。
小、中、高と学生時代でも髪を大事にし、ケアも毎日して本当に大切にしていた。
そんなエリちゃんも大学に進学することになり、一人暮らしをすることに。
引っ越しを終え、新生活にも徐々に慣れてきた頃。
友人が娘と電話をしていると、
「そういえば、最近、ちょっと変なんだよね…」
「どうした？悩み事か？」
「うーん…気のせいかもしれないけど…」
娘の様子が少しおかしいので、気になった友人は強引に話を聞き出した。
「なんか、髪を洗ってる時、重いんだよね」
「重い？髪の量が多いからじゃないのか？」

「それはわかってるんだけど…今までこんなに重いと感じたことなかったから…」
「髪の毛。全然、切ってないからじゃないか？とはいえ、切れとは簡単に言えないけどな」
娘が髪の毛を大切にしていたことは理解していた友人は娘に気のせいだよ。ということで、しばらく様子みるように伝えた。

それから、数ヶ月後。

突然、娘から連絡があり、部屋を出たいと伝えてきたという。
「どうした？突然。」
「無理…もう、この部屋、無理…」
電話の向こう側から聞こえてくる娘の震えた声に驚いた友人は娘を落ち着かせて話を聞いた。
「私…髪を切ったの…」
「え？髪を？」
その一言だけで十分驚いた。
今まで大切にしてきた綺麗な髪を突然切ったそうだ。小学生高学年からその様子をずっと見てきた友人はすごく驚いたという。
「前に、髪が重いって言ったでしょ？それが、ずっと続いてて…それも、前より少しずつ重くなってきて…絶対におかしいから、思い切って髪をカットしてみることにしたの…」
友人は黙って話を聞いている。
「肩くらいまでの長さにして…だいぶ軽くなったんだけど…髪を洗っている時の重さは全然変わらなかったの…。

なんで？なんで、こんなに重いの？大事にしていた髪の毛切ったのに！って思いながら目の前の鏡を手で拭いてみたの…」
「鏡がどうした？」
「いつもはシャワーでサッと鏡を流す程度だったんだけど、手で拭いたら何か変で…」
「変？」
2人の間に変な沈黙が流れたと友人は感じていたそうだ。
「もしもし？大丈夫か？」
「うん…手で拭いたら…短いはずの私の髪の毛が明らかに長くて…そしたら、目の前に知らない女が映ってたの…髪の長い…知らない女がこっちをずっと見てて…」
「え？女？」
電話の向こうで泣いてる娘を落ち着かせて、その日は友達の家に泊まりに行ったという。
翌日、奥さんと2人で娘のとこに向かい、久々に見た娘の姿に絶句したという。
目の下にはクマができ、長かった髪の毛は短くなり、憔悴しきった姿だったという。
話を聞くと随分前から悩んでいたという。
両親に心配させたくないと、なかなか言えなかったそうだ。
その後、両親は娘の部屋を訪れ、問題の浴室を見たという。
浴室には友人1人で入り、鏡などを見てみたが特に問題はなかった。
その後、引っ越しなどをして娘は徐々に元気を取り戻したという。