俺の2つ上のA上司は整った顔立ちに、引き締まった身体。
酒が強くて上司受けもいいだけじゃなく、その容姿も相まってか営業成績がいい。
つい先日浮気が奥さんにばれてひと悶着あったものの、A上司のテーブルの上には、ぱっと見で冷凍食品なんか1つも入ってない、すべて手作りだとわかるお弁当が今日もあった。
子育て中の不倫なんて誰の子を育ててんだよ! って俺の姉がこいつの奥さんだったらぼこぼこにされてるぞと思うけれど。
現実は違う。
不倫発覚前までは、赤ちゃんの世話で手が回らないからって愛妻弁当から外で昼食を食べる組になってたのに、不倫発覚後は制裁どころかこうして昼になると見るからに凝った弁当がA上司の机の上に並ぶ。
会社の人間が浮気を知るところになったというのに、奥さんの弁当がこのありさまってことと、お子さんが生まれて減給なんかになるとってことで上層部は上司に注意だけですませたのだ。
冷凍じゃないグラタン、唐揚げ、揚げるだけの冷凍とは形の違うコロッケ、メンチカツ、オムライス、炒飯。
赤ん坊もいて忙しいにも関わらず、不倫が発覚しても上司がすがるのではなく、奥さんのほうが捨てられないようにこうも凝った弁当を毎日作るようになるだなんて、イケメンの人生は俺の歩んでいる人生とは全く違うかと今日もため息がでる。
金曜日、A上司のテーブルの上に毎日毎日のぼる見るからに凝った弁当になんかやるせなくなった俺は今日はたまにはちょっといい居酒屋で一杯飲んでから帰ろうと思ったんだ。
まったく人生は平等じゃない、あの上司は家に帰れば、昼のお弁当でああなんだから、夜もさぞかし豪華なご飯が並ぶんだろうと思うと、ホントやるせない。
ある程度酒が回ってきて奥まったトイレに向かっていると、奥にある半個室の1室から聞き覚えのある、甲高い声がかすかにすることに気が付いた。
同じ部署のB美だってすぐにわかった。
――――最悪。
せっかく仕事のことを忘れたくて、今日は外食することにしたのに、まさか同じ部署の人間がいるなんてってげんなりする。
ただ、俺は思わず足を止めた。
「今日もすごかったよね、お べ ん と う」
偶然かすかに聞こえた言葉に思わず足を止めた。
おべんとうって単語で一体、誰の話題をしようとしているかすぐにわかったからだ。
クスクスとした失笑と共に言われた言葉は、どう考えても羨ましいっていうニュアンスではなく、馬鹿にするような感じだったからだ。
あれをみて、モヤモヤっとするやつが俺以外にもいたというわけだ。
まぁ、不倫だし。
男の俺よりも女のB美にすると奥さん側に感情移入したら当然面白くないこともあるだろう。

























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