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心霊

辻村さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

存在
短編 2025/08/21 10:42 1,316view

先月、通勤途中の駅の構内で、高校時代の友人にばったり出会いました。
最後に会ってから十年近く経っていたので、思い出話にも花が咲き、
近々お酒でも飲みに行こう、と連絡先を交換し、別れました。

お互い多忙なこともあり、日程の調整にはなかなか苦労しましたが、都合をつけて居酒屋を予約。
すると、当日に彼から連絡があり、居酒屋ではなく家で飲むことを提案されました。
送られてきた住所に向かい、インターホンを押すと、先月に比べて少しやつれた彼の姿が。
失恋でもしたのか、と冗談を言いながら部屋に上げてもらい、二人で席に着くと、彼が事情を語り始めました。

彼は今ソーシャルワーカーとして働いていて、自分が担当している人たちの就労支援や、 適切な保護を受けるためのサポートをしているそうです。

ある日、彼が前任から引き継いだ方のお宅に訪問すると、
一見、こう言ってしまうと失礼ですが、とてもサポートが必要には見えない方が出てきたとのこと。
それでも仕事ですから、いろいろお話を聞いていると、その方曰く、
隙間が怖い、と。

不安を抱えて生きるっていうのは大変だよな。
そう呟いてお酒を飲む彼の目線は、常にテーブルの天板に集中しており、私は何かおかしいと感じました。
何気なく彼の部屋を見渡すと、
キッチン棚の引き出し、電子レンジの下、ドアポストの穴、 ありとあらゆる隙間に、布切れが挟まれていました。

彼がいま、何か問題を抱えているのは確かだと感じた私ですが、 久しぶりに会う友人に対して、あまり踏み込んだ発言をすることはできず
そのまま飲み会はお開きになり、私は彼の部屋を去りました。

それ以来、私は理解しました。
この感覚は、伝染するんです。
それは確実にそこにいて、私たちを見ています。
きっと、気づいてしまったら、もう後戻りはできません。
だから私は、気づいていないんです。
エアコンの吹き出し口にも、ドアと床の間にも、デスクとモニターの間にも、
私は気づいていないんです。

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