お盆の頃、私の実家には親戚が集まります。
大人たちはお酒を飲み、子どもたちは花火をしたり人生ゲームに興じるのが恒例です。
その年、従兄弟が大量のサイリウムを持ってきました。
パキッと折ると、化学反応で光る棒です。
子どもたちは仏壇のある和室を締め切り、真っ暗にしてライトセーバーごっこを始めました。
私の母は座布団に腰を下ろし、その様子を見守っていました。
遊び始めてしばらくすると、母の声が暗い和室の隅から聞こえました。
独り言のように、襖に向かって何かを言っているのです。
「……ちょっと、光が入るから扉を閉めて」
「……気持ち悪いから、こっち見ないで」
不機嫌そうな、誰かに話しかけているような口調。
私も含め子どもたちは、不思議そうに母を見ました。
やがて母は、固い声で呟きました。
「……間違えた」
そして静かに、なにがあったのか話し始めました。
━━━
遊んでいる子どもたちを眺めていた母は、締め切ったはずの襖がわずかに15センチほど開いているのに気づいたのだそうです。
誰が開けたのだろうと襖を閉めようとした時──
その隙間から、誰かが覗き込んでいるのを見つけたのです。
父の顔でした。
襖の向こうは、大人たちが宴会をしている居間です。
その明かりを背に、父の顔は逆光に少しぼやけていましたが、にたにたと笑っているのがはっきり分かったそうです。
光が入ると子どもたちの遊びの邪魔になると思った母は、父に文句を言っていたのだそうです。
母が話しかけると、襖がスッと閉まりました。
その時、母はようやく気づいたそうです──あれは父じゃない、と。
「声も顔のパーツもお父さんだったの……でもね、位置が全部ずれてるのよ。目の高さは左右で違うし、口も右にずれてて。福笑いみたいな感じだった。……なんでそんな変な顔なのに、一瞬本物のお父さんだと思ったんだろう」
母が不思議そうに話すと、和室は沈黙に包まれました。
サイリウムの光だけで照らされた暗い部屋が、途端に恐ろしく感じられました。
私も含め子どもたちは、すっかり怯えていました。
遊びはもう中断しようと、恐る恐る襖を開けると──
向こうでは大人たちが宴会の真っ最中。
酒に弱い父は、鼾をかいてすっかり眠っていました。





















強すぎ