期限切れのお札

今から大体２年前、私が春休みに入ったころのお話です。
春休みに入り、ペットのインコと遊んでいました。午後６時ごろ、遊んだ後で横になった時、天井からどす黒い霧のようなものがいきなり舞い降りてきました。

我が家には霊道が通っており、昔から色々な現象が起こっていたのですが、これはなかなか見ないレベルです。しかしながらいつも通り、無視しようと思って、見ないふりをしていました。

ぼうっとスマホに目を落とし、動画を再生しだした次の瞬間、ドン、と音が聞こえました。インコの入っている籠が少し歪んでおり、飼っているインコ達も明らかに動揺しています。どうやら、近くの冷蔵庫の上に置いてあった鍋がインコの籠にありえない軌道で飛んで来たようです。

私を狙わない幽霊側の卑劣さと、大事な家族を傷つけられた怒りで、包丁を持ち、殺すのはもちろん、死んでいたとしてももう一度殺すことを決めました。その瞬間に向こう側もどす黒さを増し、家全体が本当に暗くなっていきました。

まずはトイレを調べました。古い木造のドアがぎいっと空きました。便器の中、タンクの中、上、下、すべていないことを確認して慎重に後ずさりしながらドアを閉め、お風呂場もしっかり内部まで確認して、ドアを閉め、鏡の後ろにもなにもいないことを確認して、自分の部屋も押入れまで確認。そうして最後の一部屋になりました。父親の部屋です。

ふすまをガラッと開けると、いつも通りの父親の部屋がありました。タンスを開け、クローゼットや押し入れの中にもいません。後ろを振り返る瞬間、背筋につららをぶち込まれたような悪寒に包まれました。素早く後ろを振り返り包丁を振り下ろすと黒い人型と妙なぞぶりとした手ごたえを感じて後ろにあったタンスに１センチくらいの傷を付けました。

やった、こいつを倒してやった、と思って喜んでいましたが、状況はさらに悪化していきました。どす黒さがまた増していき、LED電球がほぼ機能しない程度になってしまいます。原因は何だ？と思ったところ、どうやらそれが、前に貼ってもらったお札から出ていることがわかりました。そういえば、お札を貼った母親が今朝、「そろそろ替え時ね」と言っていました。

私はとりあえず、お札をビリビリに破いてライターで燃やしましたが、またもや悪化しました。そして、私の行動のミスに気付いたのです。「お札が原因」なのではなく、「劣化したお札では抑えきれずに出てきていた」だけであり、原因にとっては逆に好都合な状況になってしまったのです。

慌てた私は、母親がやっていたように和紙を取り出し、母親が作ったお札と全く同じ文言を筆ペンで書いて前と同じ位置に貼りました。その後はインコ達に被害が行かないよう見守っていたのですが、私が貼り付けたお札はひらひらといともたやすく落っこちてしまい、どうすればいいのかわかりませんでした。

ここから逃げるにしても、３月でしかもちょっと寒い日です。インコたちにとっては厳しい気候です。親戚や泊めてくれるところも近くにはありません。そんなことを考えていると、背中がとても暖かいもので覆われていくのを感じました。

いいえ、厳密には背中がとても暖かく濡れているのです。しかも、それはどんどんどんどん、痛みを伴う部分を中心にあふれているようなのです。服が濡れた嫌な感じも肌から伝わっていて、出るたびに生気が吸われていきます。背中を触っても、血はつきません、なのに、その感覚だけが大きくなっていくのです。まずいと思ったものの時すでに遅く、インコのかごに寄りかかるようにして倒れてしまいました。

普段、忙しそうな母は今は友人の家にいます。忙しい中少しでも楽しんでほしいと思っていたため、中々電話をしづらかったのですが、なくなく電話することにしました。電話するや否や、状況を察したようで「すぐ帰る」と一言言われて電話を切られ、家に戻ってからは盛り塩したり新しいお札を書いたり、私が作ったお札を適切に処理したりというようなことをしました。

何とか、これで事態は収まったのですが、実はこれには予兆があったと母親は話します。朝、買い物に出かける際、家の前に２ｍ近い大きな黒い男が立っていたと言うのです。そして、気付かないふりをした者の、こちらを凝視し続けており、とても嫌な感じがしたそうでした。そして入ってきたのも恐らくそいつだと言う話でした。

ちなみに、私の行った一連の行為はすべて逆効果だそうです。特に幽霊を刃物で殺そうとして切りつける行為が一番いけなかったそうで、刃物という基本的に穢れている？（らしいです）ものを使って良くないことをしたら斬り返されて当然だ、とすら言われ大学２年生にしてこっぴどく怒られました。

…今もまだ、たまに背中が痛くなり、温かいものがあふれ出しては生気が吸われるというあの現象が止まりません。バイトにもわずかながら支障が出ています。

皆様も、こうならないようにお札の定期的な交換と適切な処理、幽霊に対する適正な対応を心がけてください。