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心霊

洒落骨カルさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

影の隙間
短編 2025/05/11 16:34 1,308view
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その声を初めて聞いたのはおよそ半年前。リビングで1人くつろいでいた時だったと記憶している。

「見てるぞ」

腰かけているソファの後ろには壁しかない。だが、その壁の向こう側からはっきりと声は聞こえた。
状況を理解するのにそう時間はかからず、俺は、叫びだしたい衝動をこらえるのに必死だった。

それからというもの、家のどこにいてもその声は頻繁に聞こえるようになった。
最初に聞こえた声は低く太い男のものだったが、ある時は女、ある時は少年、老婆など、声の主は様々だった。
だが、その全てに共通する特徴は、いずれもひどく俺の事を恨んでいるようだということ。声色からそれがはっきりと感じ取れた。

ある時、声のする方向を見てみると、そこにはうっすらと揺れ動く黒い影のようなものが伸びていた。
壁と本棚の隙間から、細い腕と小さな手のような形をした影が、ゆらゆらと不規則にうごめいている。
それがいつからそこにあったのか、わかるはずもないが、俺が気が付くのとほぼ同時に、影はゆっくりと隙間の陰に消えていった。

先週、その日は仕事でトラブルがあり、家に着いたのは深夜0時を回った頃だった。
玄関の扉を閉め、カギをかけた時、またあの声が聞こえた。

「見てるぞ」

声は、頭上から聞こえた。
俺はもう、この恨みまがしい声にかまってやるのが面倒になっていた。
お前らは俺を見ていることしかできない。勝手にしろ、という心持ちだった。

一歩、足を家の中に進めると、また声が聞こえる。

「「見てるぞ」」

声が重なって、二つ聞こえた。こんなことは初めてだった。
思わず声のした方向を見ると、そこには影が二つ、微動だにせず天井に張り付いていた。

その時、妙な話だが、俺は影と目が合った気がした。

二つの影は、ゆっくりと天井から壁を伝い、俺の立っている廊下まで這い寄ってくる。
俺は硬直する体を奮い起こし、寝室へ走った。
寝室のドアを閉め、荒い息と鼓動を落ち着かせようと深呼吸をした時

「「「「「見てるぞ」」」」」

大量の声が、部屋中から響き渡る。

俺はたまらず悲鳴をあげ、半ばパニックに陥りながらも、壁にある電灯のスイッチを探し、叩きつけるようにそれを点けた。
部屋が光に包まれた瞬間、悲鳴は叫び声に変わった。
部屋の隅から隅まで、いたるところに屹立する無数の影。それらが全て両目を見開き、俺を凝視していた。

影は、俺の叫声を合図にしたかのように一斉に動き出し、家具や収納の隙間に素早く消えていった。

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