俺は、都内にあるとある古いビルの夜間警備をやっている。築年数は50年を超えていて、今はテナントも半分以上が空室になっている。とくに5階はもう何年も前に閉鎖されてて、誰も出入りしない。
俺の仕事は、1時間おきに各階を巡回して異常がないか確認すること。ただ、5階だけは例外で「立ち入り禁止」となっていて、管理会社の人間も「特に気にしなくていい」と言うだけだった。正直、最初は楽でラッキーくらいに思ってたよ。
でもある日、深夜2時の巡回中、エレベーターの表示板に「5」が点灯してた。誰かが5階に行った? ありえない。俺しかいないし、5階にはカードキーがないと入れないんだ。
念のため、無線で管理室に連絡したけど、「カードの使用履歴はない」とのこと。嫌な予感がしたが、俺は階段で5階まで上がった。行っちゃいけない気がしたけど、行かないともっと嫌なことが起きそうな気がして。
5階のフロアに立つと、静かすぎて耳が痛かった。照明は切れていて真っ暗。懐中電灯で照らしながら進むと、廊下の奥にある「資料室」と書かれた扉が、ほんの少しだけ開いていた。
そこは、普段は施錠されてるはずの部屋だ。
そっと近づいて中を覗くと、古びた机や棚が乱雑に置かれているだけ。誰もいない。だけど――
「……たすけて」
かすかに女の声が聞こえた。机の奥、暗がりから。
ぞっとして目を凝らすと、奥の床に何かが…這っていた。女のような、影のような、でも輪郭がぼやけている。ありえないほどゆっくりと、こちらに向かって――
気がついたら、俺は1階の警備室に戻っていた。記憶が曖昧で、途中の階段を降りた記憶すらない。あの日以来、5階の表示がエレベーターに現れることはない。でも時々、巡回中に「5階で物音がする」と報告が入ることがある。
俺は二度と、あの階には行かない。
























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