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不思議体験

海堂 いなほさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

国津神の使い
長編 2024/08/17 21:30 2,733view
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私は、神社めぐりとその神社にまつわる伝承の調査を趣味にしている。この話は、夏休みを利用してある地方の神社に行った時に体験した話です。
「国津神が、怒っている。」
 その日は、参拝も終わり、御朱印をいただくために社務所に寄ると装束を着た神主さんが現れました。
「分神(分社した神様が、本社(本宮?)が本神社に戻ってきていますよ。よい時期に来られましたね。」
「そうなんですか。」
「突然すいません。信心深い方が来られる方なんて珍しくて、つい、話しかけてしまいました。」
 神主さんは、私に微笑みながら話し始めました。私は、言葉の違和感を感じながら、曖昧な返事をしていました。
「せっかくですから、話をしませんか?」
 私は、誘われるまま、社務所の中に入り、神主さんの話を聞くことにしました。
 どうやら、その神主さんは、本殿に入ると神の声が聞こえるらしく、私も最初その話を聞いたときは、”統失か?”と思ったのですが、伝承の調査もかねて、話を聞くことにしました。
 神主さんは深刻そうな顔をして、話をします。
 「分社されて、地方の神社に祭られていた神様が山を削られたことを怒って、本宮に帰ってきており、当社の祭神との相談に来たようだ。あなたも、九州に行くときは気をつけなさい。戻ってきた分神は、そのあたりから帰ってきている。」
私は、小さくうなずいたが、話半分と思いながらメモ帳を取り出し、彼の話を聞き始めました。

 その日、神主さんは、今日の業務を終え、御本殿に向かうと違和感を感じたそうです。
 ”御本殿がぼんやりと青白く光っている。”と思った神主さんは、柱の陰から気配を消しながら中を覗き込んだ。中には、数人の男のが見え、御神体の前に一人とその人の左右に2列並んで向かい合って座っている人がいる。異様なのは、その恰好であった。古代人の着る麻で作られた白い服を着ている。髪型は、古代人の「みづら」であり、神主さんは、人にあらざる者に違いないと思った。
 みな深刻そうな顔を浮かべている。そんな中、神の一人の声が聞こえてきた。
 分神A「最近、ワシが管理する山が大きく削られておる。それに饕餮(中国の架空の妖怪、四凶の1つ)が森に現れるようになった。」
 大国主「山が大きく削られているのは、昔からだとして、饕餮とな?なぜに中国の化け物が日本に来るのじゃ?」
 分神A「わかりませんが、誰かが手引きをしているとしか思えません。今は、饕餮を抑えるだけの力がまだ残っておるが、これ以上、山を削られては、ワシの力では抑えられない。」

 どこか、分神あきらめにも似た言葉を吐いた。
 大国主「最近は、御朱印効果やパワースポット巡りが流行っているおかげで、信仰を集めているが、しゅうらくもう目も当てられない状況になっていると聞く。」
 分神B「饕餮だけでは、海を渡ることができない。それに、海は、綿津見が守っているから、そう簡単には入ってこれない。」
 大国主「綿津見か・・・・・・。あれも苦労しているそうだ。しかし、日本人は、木を切って町でも作るのか?」
 分神B「それが、おかしなことに森を切り開いた後に人は住んでおらんのじゃ。」
 そう言った分神Bは怪訝そうな顔をして髭を扱いている。
 分神A「わしの土地にも窮奇が現れておる。こっちは、神社が狙われておる。困ったことじゃ。それに・・・・・・。」
 分身Aは、そう言うと口をつぐんだ。
 大国「それにどうした?」
 分神A「窮奇が現れ始めたころから、変な民族が現れ始め、ワシの管轄地の中で大暴れしておるのじゃ。わしの民たちも困っておる。」
 大国「そうさな。分神Aの土地には、化け物退治の神を出そう。それに、あの地方の近くには素戔嗚神も鎮座しおるから、ワシから援助を頼んでおこう。」
 大国主は、そういうと立ち上がり、御神体のほうに消えていった。
 神主さんは、神様たちが居なくなった御本殿に入るとしばらくぼんやりしていたそうだ。
 神主さんの話は、話を終えるとゆっくりと立ち上がると私にお茶を入れた。
「儒教には災異説というものがある為政者が政治を怠ると天は、「天禍」と呼ばれる災害を発生させると言われている。」
 神主さんは、ため息交じりに言うと私の前にお茶を差し出した。
「ありがとうございます。」
「いえいえ、こんな爺の話を聞いてくれてすまんかったのう。しかし、ワシは心配なのじゃ。お前さんには、少しわしらのために手伝ってもらいたいことがあるのじゃ。」
 私の顔をまっすぐに見据えて言った。

 「こんなことを言っても誰も信じてくれない。ただの病気だと言う人もいる。しかし・・・・・・。」
 遠い目をする神主さんの姿は、初めて会った時よりも明らかに年老いている。私は恐る恐るお茶を一口飲んで、顔を上げると神主さんが居ない。私は、息をのんだ。さっきまでそこに存在した人が煙のように消えてしまったのだ。ただ、私の目の前には神主さんが淹れてくれた湯呑みだけが残されている。
「神主さん。」
 私は思い切って声を上げたが、その呼びかけには誰の返事もない、かわりに蜩の声だけが広がっている。
 ”怖い”全身に鳥肌が立つのが分かった。ゆっくりと背中を伝う汗が余計に気持ち悪い。
「あの、ここ、立ち入り禁止ですけど。」
 若い女性の声で我に返った私は、声のする方を慌てて振り向く。その声の主は、白衣に緋袴姿の少女だった。少女は怪訝そうな顔を私に向ける。私は、まるで先生にウソがばれた生徒のように言い訳がましく答えた。
「あっ、すいません。神主さんに連れてきてもらって。」
「宮司のお知り合いの方でしたか、失礼しました。でも、もうここも閉めますので、退出をお願いしてもよろしいですか?」
 巫女さんは丁寧に頭を下げ、私と部屋を出て行った。
「でも、変なんですよね。今日はうちの神職たちは、皆さん、外向に出ていまして、全員不在なんですよ。」
「えっ。」
 私は、素っ頓狂な声を出していた。可笑しそうに笑う少女は、私の顔を見ている。
「そんな声を出さなくても、まあ、ここは、神社ですから、そんなに驚くことでもありませんよ。」
 少女は、さも当然なように答えた。私にとって不思議な体験でも少女にとっては、世界に空気があるのと同じくらい普通なことなのかもしれない。しかし、そうなるとさっき話をしていた神主さんは一体、誰だったんだろう。私の頭の中は混乱していた。私が不思議そうに首をかしげていると巫女さんはいたずらっぽく笑う。
「私は、会ったことはないのですが、気配だけは感じます。特に、この社の近くにいるときは強く感じることもあります。時々、増えたり減ったりしますけどね。」
 「あの、貴女は人間ですよね。」
 不思議な体験をしたおかげで、すべてが私の頭の中の出来事ではないかと疑ってしまう。参道の中を少女と二人で歩いているとまるで幻想の中にいるような気分がした。
「どうでしょうか?」
 少女は真顔なまま答えた。

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コメント(2)
  • 古事記の神話を彷彿とする内容で凄く面白かったです
    国造りの神様も嘆いておられるのですね…

    2024/08/17/22:41
  • 神様も御朱印とかパワースポット巡りとか気にしてるんですね

    2024/08/30/14:32

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