11号室:エレベーター
投稿者:うずまき (21)
久しぶりに会った友達と随分盛り上がり、楽しい食事を終えて帰路に着いたのは日付も変わった午前2時すぎだった。
自室のあるマンションに着き、人の気配もなく静まり返ったエントランスを進む。自分の靴音だけがやけに響く。
まるで眠っているかのように沈黙を極めるエレベーターの脇にあるボタンでフロアを指示し、鈍い音と共に開いた扉から中へと。
「っ…。」
続いて背後から男が乗り込んで来た事に気付いた瞬間、心底驚いた。おそらく無意識にビクッと身震いしていたに違いない。
てっきり1人きりだと思っていた。いつの間に居たんだろう。
まあおれは男だし、余程の変態でもなければ襲われはしないか。
何気にそんな事を思ったのは、自分を危機感から救い、安堵させる為か。
それでも嫌な予感は拭い切れず、一旦出て見送ろうかとも思ったが、仕事としているサービス業の悲しい性か、本当にただ同乗しただけなら失礼だよなあと思い留まった。
静かにエレベーターの扉が閉まる。
男は何故かボタンに触れなかった。
同じフロアなのか…?自分が指示したフロアボタンだけが点灯したままの羅列を見ながらふと思った。
静かにエレベーターが上層へ向かって動き出す。
可能な限り視線の端で背後の様子を探る。
ちょうど男の右手の辺りには、コンビニ袋。
何故かそれがたわいない日常を感じさせ、ホッとした。
おれの考えすぎか。だいたい今の世の中が物騒すぎんだよなー。
自室のある8Fに着くと、エレベーターはゆっくりと停止し、扉を開ける。
同時にパンツの後ポケットに収まっていたスマホがLINEの通知音を響かせる。
ちょうどいい、スマホに神経を集中させてさりげなく降りようとした時、スーッと背後から手が伸びてきた。
『びっくりした…っ。』
何度この男に驚かされればいいのかと少し苛立ちと気恥ずかしさを感じつつ、その行動を目で捉えた。
男は無言で1Fのボタンを押していた。
『は…?…降りんの?』
意味がわからなかったが、もうとにかくこの場を離れようとフロアへ足を踏み出した。
まあ、同じフロアで降りるよりいっか…と。
エレベーターの扉が閉まった瞬間、着ていたカットソーが背後から引っ張られ、バランスを崩しかけた。
「えっ!?何っ??」
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