誰が呼んだの?
投稿者:水 (2)
もう15年位前の話になる。
当時、悪友に廃墟マニアがいて東京郊外にある集合団地の廃墟に行く話になった。
私と悪友のA、そしてBとCの4人で、私の車でそこに向かった。
廃墟団地に到着したのは昼を少し過ぎた頃であったが、さすが廃墟だけあって、人気はなく、不気味な雰囲気が漂っていた。
しかも、郊外とはいえ東京都内だというのに携帯は圏外であった。
だが、団地内の道は抜け道として使われているようだった。
廃墟探索していると、いつの間にか、辺りは暗くなり、団地はあっという間に夜の闇に沈んでしまった。
私たち4人は完全に真っ暗になる前に、団地の駐車場であった場所に停めておいた私の車に乗り込んだ。
車の中で夕食の相談をしていると、真横を猛スピードで走り抜けていった車が事故を起こした。
私たちは急いで事故車に駆け寄り、運転手の男性を助けた。
救急車を呼ぼうとしたが、生憎4人全員の携帯は圏外。
公衆電話も見える範囲にはなかった。
そんなとき、ふと視線を感じて団地を見上げると、ベランダから数人の住人が覗いているのが見えた。
私は思わず、
「事故ったんだ! 見てないで誰かが救急車呼んでくれよ!」
と、叫んだ。
住人は姿をベランダから消し、視線はなくなった。
5分程して、救急車が到着した。
私とAは怪我人の付添で救急車に、BとCは後から来るであろう警察に事情を説明するために残ることになった。
事の顛末を説明し終え、私は車内で落ち着きを取り戻していた。
「おい」
「ん?」
Aが顔面蒼白になって、私に声をかけた。
「誰が救急車呼んだんだ?」
「何言ってんだ、団地の……」
そこで私は我に返り、全身に悪寒が走り抜けた。
私たちは『廃墟の』団地にいたのだ。
では、見上げた時に見た人影はなんだったのか?
救急車を誰が呼んだのだろうか?
廃墟団地に住む【誰か】が呼んでくれたのだろうか?
意味が分かると怖い、って感じで良いですね。
ゾクッとしました。
同時に救急車を呼んでくれた【誰か】の
優しさにほっこりしてしまいました。