【short_34】頭頂部
投稿者:kana (210)
人の頭頂部が怖い・・・という会社の同僚Aが、
突然身の毛もよだつような、こんな話を語りだした。
会社帰りのいつもの私鉄駅ホーム。ちょうど電車が滑り込んでくる。電車はこの駅では止まらないはずの特急列車だ。猛スピードでこの駅を通過するはずだった・・・が、鋭い急ブレーキ音。ハっとして見ると、見てはいけないものを見てしまった。飛び込みだ。
飛び込んだ人は、車両とホームの隙間に挟まり、そのまま猛スピードで列車にこすりつけられ、まるで脱水中の洗濯機のように激しく体を回転させながら、血しぶきをまき散らした。
急ブレーキで止まった電車、けたたましく鳴る警笛。ホームでは線路側に立っていた多くの人が血しぶきを浴びており、阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。
Aはそこで恐ろしいものを見た。電車とホームの隙間から、人間の頭頂部が見えているのだ。
まるで風呂上がりかのように、自分の血によって赤黒く濡れている。そして信じられないことだが、その死体に向けて数人がスマホを向けて写真を撮っているのである。
レスキュー隊らによってやっと遺体が出されると、今度は作業員総出で車両を拭き始めた。
車両には先頭から最後尾まで血ノリがべっとりついていたからだ。
「えっ?アレ走らせるのかよ」周りにいた客たちからも不安げな声が出ていた。
車両は拭き残した血ノリを滴らせながら、次の駅へ向かっていった。
そんな気持ちの悪い話をしたAは、フラッシュバックでもしたのか、やけに顔が青い。
一緒に帰る途中、ちょうどM川にかかる橋を渡っている時、突然のAのやつが叫びだした。
「あぁっ!!ああああ~~!み、見ろ!水死体だ!」
「えっ!なんだって?どこだ?」
「ほら、アレだ!人の頭が見えるぞ!頭頂部が水面に見える!」
訳の分からないことを叫ぶと、突然Aは川に飛び込んだ。
オレはすぐに警察を呼び、救急も来たが・・・1時間ほどして、Aの頭頂部が水面に浮いているのが下流で見つかり、遺体となって引き上げられた。
Aが飛び込む前に見たと叫んでいた別の水死体は結局見つからなかった。
川に飛び込む直前、Aが落としていったスマホを拾った。・・・そこには、列車の飛び込み事故の時に撮られたと思われる、血みどろの頭頂部の写真が開かれていた。
Aも、遺体に群がって写真を撮っていた一人だったのだ。
kanaです。お読みいただきありがとうございます。
こちらの作品は4ページ物の過去作「人の体の部分で、どこが一番怖いですか?」を1ページに短縮したものとなります。タイトルも長いので「頭頂部」と、「質問」ではなく「答え」の方をタイトルとして書かせていたただ来ました。
尚、ちょっとネタバレになりますが、ボクの過去作である「総務部・災害対策チーム班長はやっぱり早く帰れない」も、同じ事故現場にいた設定です。
よろしければ両方ともお読みください。
あ、追記ですが、この血糊の付いたまま電車を走らせたくだりとかは、全部事実です。
かなり怖かったです((( ;゚Д゚)))