給湯室から覗く者
投稿者:大将 (3)
私は幼少に信じられないような体験をしたせいかオカルト的な存在を全面に信じています。
今から話すのは私がキャバクラに勤めていた頃、お客さんの心霊体験で百夜物語を作ろうとしていた時の話しです。
プライバシーの面を配慮して県名等は伏せさせて頂きます。
そのお客様はAさんといい、豪快に笑う50代くらいのおじ様です。
そんなAさんが若い頃、とある会社に勤めていた時のお話。
ブラック企業という言葉もない頃、残業は努力の証という体育会系な思考が強いその会社は男所帯なせいか常に複数人が夜中まで残ってはその場に寝泊まりし、風呂にも入らず体臭を気にすることも無く翌朝仕事に取り掛かるなんて環境だったそうです。
その日、会社に残ったのはAさんと同僚のBさん、後輩のCさんの3人。
BさんはCさんの教育係で、Cさんの業務ミスの穴埋めのために残っていました。
なので休憩等も2人同時に取っていたそうです。
Aさんは来週に控えた海外旅行のため、前倒しに仕事を済ませたく残っており、2人とは違うスケジュールで動いていました。
Aさんのデスクの上の灰皿は吸殻が山のように積み上げられており、タバコを押し付ける度、崩れた吸殻が書類に向かって落ちてくるような量でした。
1列だけ付けられた心もとない電灯を頼りに山盛りの吸殻にいやいや手を添え、給湯室に向かいました。
丁度吸殻を三角コーナーに捨て、擦るわけでもない灰の汚れを蛇口から出る流水で適当に洗い流す中Aさんはどこからか視線を感じました。
給湯室の入口はドアがありません。
AさんはBさんがまたふざけてこちらを見ているのだと思いました。
Bさんはこっそり背後やそばに近づくとじっと見つめ、存在に気が付いて驚くAさんをからかうといったイタズラをよく行っていたそうです。
ですので、Aさんは逆におどかしてやろうと少し息を吸い込み振り返ると同時に
「ワッ!」と腹の底から大きな声を後ろにぶつけました。
振り返った先、Bさんはいませんでした。
代わりにAさんよりいくつも高い上の、天井のギリギリから真横に生えるように女がこちらを覗いていたそうです。
Aさんは人の顔を覚えるのが苦手な方だったらしく、一瞬「誰だったか」と脳内で部署の人間を並べます。
が、そもそも女性にその行動が取れるのか。
それに真横から覗いているにも関わらず何故髪が重力に逆らい真っ直ぐとたっているような形をしているのか。
Aさんは叫ぶことも出来ず、そのまま女を見つめるしかありませんでした。
どのくらいそうしていたでしょうか、パタパタと小走りでこちらにかけてくる足音が聞こえ、フロアにいたであろうBさんが女の真下からひょいっと顔を覗かせてきました。
「お前、急になんだよぉ」
目線をBさんに移し、戸惑うAさんは視界の端が揺らいだことに気が付き、再び上を見あげます。
その視線に気がついたBさんも真上を見あげ訝しげにAさんを見ました。
「すまん、虫がいたから大声でどっかやろうと思ってな」
Aさんはそう誤魔化し、Bさんと共に給湯室を後にしました。
😱