山あいのラブホでの一夜
投稿者:ねこじろう (147)
「ねぇ、もう帰ろうよ」
助手席のN美が少し疲れた感じで、Sに声をかける。
彼はそんなN美の訴えに答えることもなくハンドルを強く握りしめると、さらにアクセルを踏み込んだ。
日はとっくに落ちていて、車の外は漆黒の闇が支配していた。
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それは夏のとある土曜日のこと。
29歳のSと5歳下のN美は午後からSのアパートで遊んでいたが、暇を持てあましドライブデートに出掛ける。
隣町の中心部にあるショッピングモールに車を停めた後、しばらく2人でショッピングを楽しみ、モール内のレストラン街で晩御飯を食べた。
それから再び車に乗り、走り出す。
その時はもう既に太陽は西の彼方に沈もうとしていて、辺りはだいぶん薄暗くなっていた。
SはN美とさらに濃密なひとときを楽しもうと郊外のインター近辺に建ち並ぶラブホの1軒に車を入れるが、あいにくと満室だった。ならばとさらに周辺の数軒に入るが、やはり全て満室だった。
しょうがないからSはまた県道を北に走りだす。
そして途中に見つけた道沿いの一軒に入るが、これまた満室。
このくらいからSの顔には焦りの、N美の顔には困惑の表情が現れ出していた。
どんどん北へと走り続けるSの横顔を見ながら、とうとうN美は口を開く。
「ねぇ、もう帰ろうよ。私ちょっと疲れたよ」
彼はN美の訴えには全く耳を貸すことなく、ひたすらハンドルを握り正面に伸びる道を睨んでいた。
その顔には悲壮感さえ漂いだしている。
残念ながらオスの悲しい本性がむくむくともたげてきているようだった。
やがて車はゆるやかな傾斜の坂道を走り出す。
県境の山あいに入ったようだ。
右手にはガードレール、左手には山林の迫る片側一車線の道を、Sの車は走り続けている。
既に辺りは闇に包まれていた。
この頃にはN美は腕組みして不貞腐れたような顔でウィンドウからボンヤリ外を眺めていた。
すると何個めのカーブを曲がった時だろうか、突然N美が
「ねぇ、あそこ、何か光ってるよ!」
と言ってフロントガラスの左前方を指差す。
Sもそっちに視線をやった。
ねこじろうさんの作品は本当に引き込まれるし、いつも楽しみにしてます。
ありがとうございます。
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彼女は、とりつかれてしまったのか((( ;゚Д゚)))