地獄の水先案内ピエロ
投稿者:ねこじろう (147)
その日サトルは勤め先の工場を首になった。
30歳を目前にしたときのことだ。
理由は業績不振による人員整理。
彼には何の非もない。
しかもよりによって5年間付き合っていた彼女に振られた、ちょうど翌日のことだった。
さあ、いよいよ30代突入!
仕事もまあまあ、彼女との結婚もそろそろと考えだしていた後のダブルショック。
自暴自棄になった彼は人員整理を告げられた日の夜、一張羅のスーツに身を包み、持ち金の全てを財布に突っ込んで普段は絶対行かない隣街の酒場に出掛けた。
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一軒、二軒、三軒、バー、スナック、キャバクラと後先考えずにサトルは店に飛び込み、浴びるように飲む。
そして四軒目に入ったキャバクラを数人のドレスを着た女の子たちに見送られながら出たとき、時刻はすでに午前1時を過ぎていた。
彼は通りのドブにしこたま吐くと、ぶつくさと意味不明な独り言を呟きながらフラフラとネオン街を彷徨いだす。
すると突然誰かが背中を叩いた。
驚いて振り向くと、
満月を背中にピエロが立っている。
赤白の派手な格子柄のつなぎを着て真っ黄色に染めたチリチリの髪をサザエさんのように編み、にっこり不気味に微笑んでいる。
―なんだよ、ビラ配りかよ……
サトルが無視して立ち去ろうとすると、
「あらあら、お兄さん、かなり酔ってますねえ」
ピエロが薄気味悪くにやつきながら、後ろから話しかけてくる。
「ほっといてくれよ!俺はもう死にたいんだ」
「死にたい?
まあ、怖い!
それはまた物騒なことを言われますねえ。
あなた本当に死にたいんですか?」
変に明るく素っ頓狂な声でピエロが尋ねる。
「そうだよ、死にたいんだよ!」
なげやりな感じでサトルは答えた。
するとピエロは
「死ぬと言いましても、いろいろ方法があるんですが……」
と言いながら、いつの間にかサトルの横を歩いている。
嫌な事ばかり続くと、やっぱりへこむ。
怖い
死を体験できる映画館みたい。
使い方によっては自殺防止の教材になりそう