奇々怪々 お知らせ

不思議体験

かずさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

黄昏(誰ぞ彼)
短編 2023/04/06 20:04 2,468view
3

日が沈み始めた。
私はぼーっと外を眺めながらタバコを吸おうとバッグを手に取った。
ここは最近珍しいタバコを吸える喫茶店だ。
「失礼します」
長身でモデルにでも居そうなマスターがコーヒーを運んで来た。
香ばしい香り。
珈琲の香りを嗅ぎながらふと顔をあげふと向かいの席を見た。
私は驚いて息をのんだ。
パパが微笑みながらタバコを吹かしている。
「パパ‥、えっと‥」
パパだ。パパが居る。
私はパニクりながらも言葉を捜した。
やっと出た言葉は「コーヒー頼もうか」
パパは無言で首を横に振った。
私は内心動揺しながら、でも冷静を装いながらさらに続けた

「パパ、あのさ、私、結婚して子供も生まれたんだよ。パパの孫だよ、私が結婚して孫が出来るの楽しみにしてたでしょ」
いきなり言った。パパに一番伝えたかった事だったから。
パパは嬉しそうにうなずく。
その後気まずそうに口ごもりながら私は続ける。
「でも旦那とは離婚しちゃった‥いろいろあってね。なんかごめんね」
パパはこれにも微笑みながらうなずく。
何か話さなきゃ。
「パパ今、年号なんていうか知ってる?令和っていうんだよ」
何言ってるんだ私は。
タバコを美味そうにふかしながら私の言葉をにこやかに聞くパパ。
夕日が窓から指している。
あわてて言葉を続けようとした。でももう何を喋っていいか、わからない。伝えたい事はいっぱいあるのに。俯きながら私は言った。
「パパ…あのさ…まだ話したい事がいっぱい…」

紫煙がまだ漂っている。
「ふう~っ」

冷めてしまった珈琲を飲みほした。
もう目の前にパパはいない。
夕日に溶け込むように消えてしまった。
テーブルの上にはセブンスターの吸い殻と灰皿。
私は席を立ちあがる
窓の外を見るとさっきよりも暗くなっている。黄昏時。
「黄昏」の語源は「誰ぞ彼(だれぞかれ)」から変化したらしい。
私の前に座っていたのは誰だったんだろう。
幽霊なのか?パパだったとしても、この世の人ではない事は確かだ。
私の事を心配して逢いに来てくれたのか?
レジで会計を済ませながらマスターに言った
「ごちそうさまでした。また来ます」
マスターはにっこり微笑みながら「ありがとうございます。またお待ちしてます。」と頭を下げた。
マスターの声を聞きながら店を出る。
「パパ、さっき伝えられなかったけど、私もタバコ吸うんだよね。」
苦笑いしながら、セブンスターに火をつけ思いっきり吸い込んだ
小さい頃嗅いだなつかしいパパの匂いが鼻腔いっぱいに広がった。

1/2
コメント(3)
  • kamaです。じーんときますね。

    2023/04/06/20:49
  • 幽霊でも良いじゃない。

    2023/04/07/00:35
  • ノスタルジックな雰囲気でホロリときました。

    2023/04/07/01:02

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。