根無しという怪異について
投稿者:藤野 (11)
私が小学生だった頃、学校でとある怪談が流行っていた。私達の学校の近くにはいつも花が供られている電柱があったのだが、稀に「助けて」と女の子の声がするという。それに返事をすると、自分も連れて行かれてしまうーーというのが怪談の全貌だった。しかし子供なので、人によって言っていることがかなり違っていたが。
ある時学校でお泊まり会をする行事があった。夕暮れ時、私達は一旦家に帰って風呂に入ってから学校へ戻る。家が少し遠かった友人の元木は、私の家の風呂を借りることになっていた。蒸し暑い日だった。
私を先頭にして狭い道を歩く。ほどなくして例の電柱が目に入った。すぐ隣が道路なので、きっと本当に事故で人が死んだんだろう。そこを歩く時はいつもヒヤヒヤしていたことを覚えている。その日も花は供えられていた。どういう周期で交換されているのか、まだ瑞々しい百合の花がコンクリートの地面に横たわっている。
電柱とすれ違う時……後ろから、聞こえてしまった。
「助けて」
私は驚いて足を止める。だって、なぜなら。後ろから聞こえてきたのは確かに高い声だったけれど、女の子の声ではなかったから。
「助けて」
振り返った。西陽を背に受けて黒々と影になる電柱。その後ろに、元木がいる。その時もう一度、確かに「助けて」と声がした。
ーー元木だ。
声は確かに男のものだった。それに元木は電柱の影から動かないし、こちらを窺っている様子だ。きっと、悪戯してやろうとでも思ったのだろう。でもやっぱり異様に思えたので、私は「何やってんだよ」とだけ言って家まで走った。私が家に着いてしばらくしてから普段通りの元木が来たので、本当に悪戯だったと思うことにした。
学校に戻る時は元木を先頭にする。私がおかしくなってしまうかとも考えたが、幸い杞憂に終わった。
そもそも、あの怪談自体が出鱈目だったのだ。花が供られているから人が死んだと考え、それは当たっていた訳だが、実際亡くなっていたのは男の子だった。そもそも事故自体は私達が産まれる前の話で、内容は大人の中でもそこそこの年の人しか知らなかったらしい。だから女の子の声なんてするはずもないのだ。
あの後中学生になってから例の電柱を見に行ってみたら、もう花はなかった。今の小学生はそこで事故があったことをこれからも知らないのだろう。
……なら、元木は。
元木のあれはなんだったんだろう。あの後元木は交通事故で死んだ。結局、あれが悪戯だったのかそうじゃなかったのかは聞けず仕舞いだ。
でも私は本当に悪戯だったんじゃないかと密かに思っている。助けを呼ぶ“女の子の声”の部分だけが出鱈目で、本当は声変わり前の男の子の声だったとしたら? 本当に連れて行かれた子が過去にいたんだとしたら? 元木の声真似が、意図せず返事に含まれていたんだとしたら?
真偽のほどは分からない。でも私はそう考えたいのだ。もし私の仮説が正しくないとするなら、原因のない空っぽの怪談が存在し得るということになってしまうから。それはあまりに理不尽すぎるだろう。
追記
本当は、私が作った怪談だった。助けてなんて声はしない。だから返事のしようもない。そもそも人が死んでいたのかどうかすら知らなかった。
怪談が広まって、霊能者気取りのやつが「声がする」とか言って顔を青くしていたのを見て私は笑っていたけれど。もしかしたら本当にしていたのかもしれない。それも常に。
だから、あの電柱の前で話をしちゃいけないんだ。何を言っても返事になってしまうから。元木のあれが返事なら、私は
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(とあるホラー系の動画にされた、一部の界隈で有名な長文コメント。ホラーということ以外動画と関係ないが、一週間程度でSNSで異様に拡散され、その後コメントが消される。以下コピペ)
七不思議ってあるじゃないですか。学校の。自分が行ってた学校にももれなくあったんですよね。でも、うちの学校の七不思議って元がちょっと変わってて、全然怖くないんです。口裂け女の都市伝説は、子供を早く家に帰らせる為に親が作ったとか聞いたことありません?そんな感じで、いかにも先生が作ったでしょ、みたいなやつでした。まあ例えるなら廊下を走ったら無限廊下に迷い込むとか。そんなやつです。
だから塾で一緒だった別の学校の友達が羨ましくて、私はクラスのホラー好きな数人と「新七不思議」を考えることにしました。で、せっかくだからうんと怖い話を考えてやろうと思ったわけですね。
1 トイレの花子さん
2 勝手に音を鳴らすピアノ
3 体育館に出る男の子(頭でドリブルをしてるやつ)
4 幽霊が見える鏡
5 鍵が閉まる地下室
6 屋上から飛び降り続ける幽霊(目が合うと自分が飛び降りることになる)
7 七不思議を全て知った者はいなくなってしまう
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