飲み屋街で待ち続けるおばあさん
投稿者:へぴょ太 (5)
私の地元には大きな飲み屋街があり、その飲み屋街の一角は六十代以上のママさんが経営するお店が多くならんでいる場所がある。飲みにくるお客さんも年齢層が高めである。
ある年、同窓会の三次会で、先生と同級生数人でそのディープな飲み屋街へ行くことになった。
建物もみんな古く、トイレがない店がほとんどなのだ。外に共同トイレがあり、真夜中の共同トイレはなかなか雰囲気があった。
しかし、三軒目ということもあり、みんなトイレもちかくなってきた。
共同トイレは長屋になっている飲み屋の建物と建物の間にあり、入口には裸綿球がぶら下がっていた。その裸電球の下にはビールケースの空箱があり、おばあさんが座っていた。
普通ならこんな真夜中におばあさんが、共同トイレの前に座っていることに疑問を抱くだろう。しかし、すでに相当飲んでいたので私はそのおばあさんに話しかけていた。
「おばあちゃんもトイレ?」そう声をかけると、おばあさんは何か小さな声でつぶやいたが、うまく聞き取れなかった。
今度はおばあさんの前にしゃがみこみ「おばあちゃんトイレ並んでるの?」と声をかけた。
するとおばあさんは、後ろでおだんごにしているグレーの髪の毛を触りながら「お客さんを待ってるんだよ」と答えた。
どうやら、お客さんがトイレに行ったのでそれを待っているらしい。よく見るとエプロンの下には、年齢の割に派手なスパンコールがついた服を着ている。
きっとこのあたりのママさんなのだろう。色白で小奇麗な人だと観察していると、今度は後ろから声をかけられた。
「ねぇー!トイレまだ?なんでそんなところでしゃがんでるの?」
振り向くと同級生が来ていた。
「今人入ってるんだってー!だから待ってんの」そう返すと同級生は不思議そうな顔で私を見た。
「え?酔ってんの?トイレ空いてるよ!」そう言って私の横を通りトイレを開けた。
「あれ?でもおばあちゃんがお客さん待ってるって……」そういっておばあさんが座っていたはずの空箱を見るともう誰もいなかった。
さっきまで話をしていたおばあさんが消えたのだ。同級生後ろから来たので、行けるのは前のトイレだけ。
でもトイレには誰もいない。
私は背筋が凍るようなゾッとする感覚に襲われた。
店に戻り話すと、ママが教えてくれた。
数年前にこの並びで店を営んでいたあるママが、お客さんがトイレから戻らず心配になりトイレの前で待っていたそうだ。実はその客はよっぱらっていて、店に戻らず帰ったのだ。それに気づかずに真冬に店からでてきたママが心臓発作を起こして亡くなったらしい。
私があったおばあさんは、今でもお客さんを待っているそのママさんなのだろう。
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