半端な優しさ
投稿者:satohiroshi (10)
大学の実習の話
生物系の大学の実習で、ラットの解剖があった
勉強のためとはいえ、生き物を殺してしまうことに変わりはない
せめて苦しまないように、解剖前にできる限り苦痛を与えない方法で命を断つ、という過程がある
それはガスだったり、低温だったりと様々だが、うちの大学は昔ながらの方法である「頚椎脱臼」を採用していた
ラットの頭としっぽを持ち、勢いよく上下に引っ張る
するとラットの首の骨が脱臼し、即死させることができる、というものだ
この方法は、「直接手を下す」という点がキツく、実習の辞退を願い出る学生もいた
言ってはなんだが、虫くらいならあまり躊躇なく殺せる人はそれなりにいるだろう
しかし、ラットくらいの大きさで、触ると自分と同じ温もりを感じる恒温動物を殺す、というのはかなりの忌避感が生まれるものだ
しかし、これは必修科目で、落とすことはできない
仕方なく友達に依頼したりする者もいた
一方で、生真面目な学生は「命を奪うことへの責任」という観点から、人任せにしたくないと考える者もいた(尤も、ラットからすれば殺されることに変わりはなく、唯の自己満足でしかないが)
だが、中途半端な憐れみは、却って仇となる場合がある
ある一人の学生がまさに手を下した瞬間
「キイイィィィィーーーぃぃぃ……」
という、叫び声がフェードアウトするような鳴き声が聞こえた
時間にしておよそ30秒ほどで鳴き声は止んだ
あまりにも悲痛な声に、泣き出してしまう学生もいた
講師として立ち会っていた教授が言うには
ラットは、頚椎が半端にズレたせいで植物状態になった
神経系が一部遮断され、直前に出された「鳴き声をあげる」という信号がONのままとなった
ラットはその信号に従い、文字通り「息が絶える」まで叫び続けた
ということだった
ひと思いにやっていれば防げたことだっただろうが、その学生は優しい奴で、それが却ってラットを苦しめることになってしまった
果たして、自分で声を上げ続けて死ぬ、という死因はそれまでの歴史に存在したのだろうか
そんな目に遭ってしまったら、どれほどの苦しみなのだろうか
科学の発展のためとはいえ、今でもあの叫び声を思い出すと心が痛くなる体験だった
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