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ヒトコワ

satohiroshiさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

半端な優しさ
短編 2021/03/01 12:01 3,195view
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大学の実習の話

生物系の大学の実習で、ラットの解剖があった
勉強のためとはいえ、生き物を殺してしまうことに変わりはない
せめて苦しまないように、解剖前にできる限り苦痛を与えない方法で命を断つ、という過程がある
それはガスだったり、低温だったりと様々だが、うちの大学は昔ながらの方法である「頚椎脱臼」を採用していた
ラットの頭としっぽを持ち、勢いよく上下に引っ張る
するとラットの首の骨が脱臼し、即死させることができる、というものだ

この方法は、「直接手を下す」という点がキツく、実習の辞退を願い出る学生もいた
言ってはなんだが、虫くらいならあまり躊躇なく殺せる人はそれなりにいるだろう

しかし、ラットくらいの大きさで、触ると自分と同じ温もりを感じる恒温動物を殺す、というのはかなりの忌避感が生まれるものだ

しかし、これは必修科目で、落とすことはできない
仕方なく友達に依頼したりする者もいた
一方で、生真面目な学生は「命を奪うことへの責任」という観点から、人任せにしたくないと考える者もいた(尤も、ラットからすれば殺されることに変わりはなく、唯の自己満足でしかないが)

だが、中途半端な憐れみは、却って仇となる場合がある

ある一人の学生がまさに手を下した瞬間
「キイイィィィィーーーぃぃぃ……」
という、叫び声がフェードアウトするような鳴き声が聞こえた
時間にしておよそ30秒ほどで鳴き声は止んだ

あまりにも悲痛な声に、泣き出してしまう学生もいた

講師として立ち会っていた教授が言うには
ラットは、頚椎が半端にズレたせいで植物状態になった
神経系が一部遮断され、直前に出された「鳴き声をあげる」という信号がONのままとなった
ラットはその信号に従い、文字通り「息が絶える」まで叫び続けた
ということだった

ひと思いにやっていれば防げたことだっただろうが、その学生は優しい奴で、それが却ってラットを苦しめることになってしまった

果たして、自分で声を上げ続けて死ぬ、という死因はそれまでの歴史に存在したのだろうか
そんな目に遭ってしまったら、どれほどの苦しみなのだろうか
科学の発展のためとはいえ、今でもあの叫び声を思い出すと心が痛くなる体験だった

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関連タグ: #カラス#声
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