魂が入り込んだ人形
投稿者:ぴ (414)
私が初めてその子に出会ったのは、小学生の頃だったと思います。
私よりも3つくらい年が離れた親戚がいて、初めてその親せきの家にお邪魔したときに、沙紀ちゃん(仮名)と出会いました。
年が近く、私と沙紀ちゃんはまるで姉妹みたいに仲良くしていました。
私も沙紀ちゃんも一人っ子で他に兄弟がいなかったこともあるかもしれません。
出会ってすぐに急激に仲良くなり、親せきで集まるときはいつも一緒にいるようになりました。
私はごく普通の平凡な見た目なのですが、沙紀ちゃんは親戚なのに私とは似ても似つかないくらいに容姿が整っていました。
まるで人形みたいな真っ黒なさらさらした長い髪にお母さん似の真っ白な肌と二重のぱっちりした目に真っ赤な唇が印象的で、お世辞でもなんでもなく可愛くて綺麗な子でした。
親戚の中でもコンテストなどで優勝しそうなくらいに綺麗ねとよく褒められていて、私もそう思っていました。
羨ましいくらいに可愛らしい子だったけど、その子には一つだけ欠点がありました。
それが、体が弱いところなのです。
私と遊んでいるときも、時折体調を崩したり、発作が起こったりすることがありました。
そうなると沙紀ちゃんのお母さんが飛んできて、部屋に連れていきました。
沙紀ちゃんはずっとその自分の体の弱さに悩んでいたみたいです。
私といるときも、「急に具合悪くなったらごめんね」と謝って気遣ってくれていました。
私が年上だし、もっと気遣わないといけないはずなのに、沙紀ちゃんは逆に自分が急に発作を起こしたら申し訳ないと思っていたみたいでこっちを気遣ってくれました。
そんな沙紀ちゃんが体を悪くして入院したのは、確か中学生の夏休み前だったと思うのです。
夏休みになったら一緒にお見舞いに行こうと母と約束していて、その時に会う気でいました。
沙紀ちゃんはよく入退院を繰り返していたので、またすぐに良くなると勝手に楽観的に思っていたのです。
そんな沙紀ちゃんが亡くなったと聞いたのは、夏休みに入る直前のことでした。
沙紀ちゃんが亡くなったお葬式のとき、私は棺の前でわんわん泣いてしまいました。
まだ沙紀ちゃんがいなくなっただなんて信じられなかったし、悲しくてたまらなかったです。
うちの母も私と一緒に涙ぐんでおり、沙紀ちゃんの早すぎる死を悲しみました。
親戚や知人の人もすごく悲しんでおり、涙の別れになりました。
しかし、ただ一人沙紀ちゃんのお母さんだけはその日一滴も涙を流さなかったのです。
ずっと不思議だったし、悲しんでいないのかと思いました。
私は泣いてもあげない沙紀ちゃんのお母さんにいろいろ思うことがあったのですが、母に「本当に辛いときには泣けないときもあるのよ」と教えてもらいました。
私はその言葉で、沙紀ちゃんのお母さんが誰よりも悲しんでいることを知ったのです。
それから数か月経ち、私は沙紀ちゃんとはもう会えないことをじわじわと思い知らされました。
これまで兄弟がいなかった私は沙紀ちゃんをずっと妹のように可愛がっていたのです。
正直沙紀ちゃんの可愛さやちやほやされるところに嫉妬することはあったのです。
元気を取り戻せないお母さんを不便に思ったのかもしれないですね。