斎場の斉場
投稿者:ねこじろう (147)
「申し訳ございません!」
F市の斎場施設「やすらぎの園」一階奥にある待合室のドア前で、紺色の作業着の「火葬技師」古澤がひざまずき、床に頭をこすりつけている。
その向こうには、長机に向かい合うように、数名の喪服姿の男女がソファに腰かけていた。
「あんたにそんなことをしてもらってもねえ。嫁は元には戻らないんだしね」
一番奥まったソファに座る銀縁眼鏡をかけた細面の中年男性が、ふんぞり返るようにしながら嫌みな口調で言った。
トン、トン……
新人「火夫」の斉場がノックしてドアを細目に開いて、
「あの、お迎えのバスが到着しましたが……」
と遺族たちに声をかける。
施設職員たちが葬儀屋のマイクロバスが走り去るのを正面玄関前で並び、深々礼をしながら見送っている。
最後尾に並ぶ白髪交じりでボサボサ頭をした火葬技師の古澤が、ふて腐れながらぼやく。
「ちっ!あんな、骨と皮だけの骸骨女。形なんか残せるはずねえだろう!ぶつくさ文句言うのなら、お前らも一緒に焼いちゃうぞ!」
横に並ぶ斉場とその隣に並ぶ若い火夫は、古澤のいつものぼやきに顔を見合わせながら苦笑していた
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40歳の斉場トオルが、山あいにある斎場「やすらぎの園」に勤務しだして三日が経つ。
ちょうど一年前のこと、
彼は二十年勤めていた工場を突然リストラされた。
独り身の彼は十分な貯えもなく、すぐに職安に行き、失業手当を受給しながら懸命に職を探した。
だが特別な技能も資格もない四十歳の男を雇ってくれるところは、中々見つからなかった。
そんな中、安アパートのこたつに入り何気なく市報を眺めていると、臨時市職員募集の広告が目に入る。
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市施設「やすらぎの園」臨時職員募集。
業務内容:炉前業務、火葬炉運転操作、軽微な保守業務、清掃他
※業務上車を運転する機会有(マイカー使用)
丁寧にお教えしますので、初めての方でも安心です。
勤務日時:月曜から金曜の八時三十分から午後五時十五分まで。
各種手当あり。給与:二十万円~二十五万円。
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─なんだ、この仕事、楽勝じゃないか。給与も悪くないし、拘束時間も短いし。
多分?お礼するために現れたとしか思いたい。
母子の幽霊って、最恐ですね。
伽椰子と俊夫くんもそうですが。セットで現れると、こちら側としては、古澤さんのようにビビるしかないですもん。それにしても、どうして古澤さんに付きまとうんでしょうね。単にお礼したいだけなんでしょうか。それとも、何か他に理由があるのでしょうか。