お供え物、お食べ
投稿者:りー (118)
短編
2022/06/13
07:22
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子供の頃の話です。家の仏壇には毎日お線香をあげると共にお菓子や果物を供えていました。
ある時、美味しそうな桃をお供えしました。
贈答用の立派な桃で私は早く食べたくて仕方ありませんでした。
私の家は果物類はしっかり熟れるまでお供えする決まりだったのでなかなか食べられません。
母に「今日食べて良い?」と聞き「まだダメ」と返されガッカリする日々を過ごしていました。
その日もまだダメで仏壇の前でガッカリしていたら不思議な事に桃が独りでに転がり落ちて来たのです。
もちろん地震など起きていません。
母に言ったら最初は信じてもらえませんでしたが実際、戻しても戻しても落ちて来るところを見せると大いに驚いていました。
母は少し考え桃を手に取ると「剝いてあげるわ」とまだ熟れ切っていないのに食べやすい大きさにカットして私の前に出してくれました。
一緒に頬張り舌鼓を打っていると母は「あんたがあんまり食いしん坊だから、ご先祖様が食べなさいって出してくれたのよ」と言いました。
きっとその通りだと思います。ご先祖様の思いが詰まった桃はジューシーで優しい甘さがありました。
お供え物が落ちて来たのは後にも先にもその時だけですがしっかり私達を見守ってくれているんだと実感した出来事でした。
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