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妖怪・風習・伝奇

ねこのみやさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

奪うもの
短編 2021/02/04 20:49 2,830view

私は中学・高校・大学と電車通学をしていた。家から学校まではけっこうあり、家が田舎なので途中の駅で乗り換えをしなければならない。乗り換えの駅は結構大きな町にあり、車の工場や家具の工場がある側と、線路・駅を挟んで向かい側には結構新しく建てられた団地があるような、そういう町だった。乗り換えの待ち時間、その工場群から化学製品の臭いがきついことがあった。おそらくは塗料なのだろうと考え、健康被害が出たら嫌だなーとか思ってた。噂によれば、化学製品の公害より心配するべきことがあったらしい。そこに住む友人からこんな噂を聞いた。

新聞やテレビに出るようなニュースにもなってない事件だが、半グレ集団が一般人を暴行して殺してしまった事件があったそうだ。暴行された人を放置したグループだったが、良心の呵責に耐えきれなくなった下っ端が自首して、現場に大量の血痕が見つかり、何人か過失致死で起訴された。しかし不思議なことは、血痕は見つかり、本人のものだと証明されたが、肝心の遺体が現場からなくなっていたのだ。グループの人間は工場の資材置き場に野ざらしにしたと言っていたが、そこには致死量に達する血液と髪の毛、衣服の断片だけが残っていた。そのまま事件は殺人事件として扱われ、犯人たちはしかるべき刑に処された。しかし、彼らは「俺たちはボコっただけだ。殺したりなんかしていない」と最後まで言っていた。

それから数年後、僕は単なるニートになっていた。パチンコも競馬もタバコもしない僕は暇つぶしのために遠くまでジョギングしたりサイクリングしたりすることが日課となっていた。就職活動ですり減って傷ついた僕は頭も心も使いたくなかったのだろう。

あの事件の現場となった資材置き場はいつしかお気に入りの通り道になっていた。特に現場であることを意識して通ってるわけではなく、人を拒んだような無機物がずらっと並んだ光景を疾走するのが好きだったのだ。

その日は夏休みだった。いや、ニートの僕は毎日が夏休みで冬休みだったが、そういう時期だった。暑い中、帽子ランニング半パンシューズ姿でジョギングしていた僕は、いつしか資材置き場に足を踏み入れていた。

資材置き場の鉄骨に腰かけてぼうっとしていると、視界に何やら黒い毛むくじゃらが目に入った。

なんだ?

その大きさと質感から予想された音は全くなく、ただ相手の重い質量に圧倒された。

毛むくじゃらはこっちを見てニヤリと笑った。顔なんてついて無くて、全体の一部をこっちに向けただけなのに、悪意と殺意を猛烈に感じた。直感的に、ああ、こいつが全部悪いんだと思い、同時にあきらめた。無になった自分の心を折しも降ってきた夕立がさらに押し流す。そいつはこっちを向いたまま、そのままじっとしていたが、自分が放心している間に地面に雨と溶けた。助かったと思い、すぐにその場を立ち去った。

あれから後、僕の身には何も起こっていない。少なくとも自分はそう思っているが、相変わらずニートのままだ。しかし、心の傷は癒えたように感じた。

まるで心そのものが持ち去られたように・・・

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コメント(2)
  • あのぅ 暴行事件は?

    2021/02/05/00:34
  • そんな事件がニュースにならない訳無い。

    2021/02/05/10:50

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