黒魔術師にライバルがいなくなるよう依頼した結果
投稿者:peace (1)
東南アジアのとある国に長期滞在していたときの話です。
何かと世話を焼いてくれる近所の50代の主婦と親しくなりました。
穏やかで優しくて、お手製の地元料理をよく振る舞ってくれる素敵な方です。
ある日、「家計を助けるためにいい仕事がないか探しているのよね。」という話になりました。
彼女は運転免許を持っていないため働ける場所が限られています。普段お世話になっているので、何か協力できることはないかと近所をウロウロしてしていると、「先生募集」の張り紙を見つけました。
そこは自宅の一室を個人塾にしている、日本で言うくもんのような教室。言葉もきれいで聡明な彼女に向いているかもしれないと思い、さっそく連絡しました。
とんとん拍子で話は進み、その方は国語を受け持つことになりました。
「歩いて行ける距離だし、オーナーもとても良い方だったわ。教えてくれてありがとう。」と感謝され、わたしも普段の恩返しができ満足。
そうこうするうち、彼女の塾には多くの子どもたちが通うようになりました。
その国は子だくさんの家庭が非常に多く。ひと家族につき3,4人の子どもがいるのはごく普通のことです。
ひとたび塾の評判が上がるとその情報はあっという間に近所へ広まり、「うちの子もお願いします。」と兄弟そろって通うパターンがよく見られます。
彼女は真面目に働く上に教え方も上手だったので人気があったようです。
ただ、教室は一般住宅の一室ですからそれほど広くありません。オーナーはしぶしぶ「これ以上生徒を受け入れることはできない」と断っていたそうです。
それを見た近所の人が自分も塾を開き、断られた子どもたちを受け入れるようになりました。
何せ子だくさんの国ですからそこもすぐに満杯になり、また別の塾が開かれ生徒を集めます。
結果その地域には3軒の塾が軒を連ね、やがて互いをライバル視するようになってしまいました。
「なんだかギスギスして働きにくいわ。オーナーもライバル塾を気にしてイラついているし。」という愚痴を彼女から聞く日も増えてきて、わたしは少し心配していたのですが。
それから数カ月後、なんとライバル塾がパタパタと閉業してしまったのです。
聞けば、あるオーナーは心臓発作、別のオーナーは脳出血で倒れ、病院に運ばれたものの手遅れだったということです。
こんな短期間でそんなに人が倒れるものかと不思議に感じたものの、発展途上国は医療もじゅうぶんに行き渡っていないし、そういう不幸も起こるのかもなとあまり深く気に留めませんでした。
結果、そのエリアの塾はまた1つだけになってしまいます。
行き場を失くした子どもたちが続々とまた彼女の塾に戻ってきました。一時期は閑散としていたそのクラスにも再び活気が戻り、彼女も忙しく働く日々が続きました。
しかしある日。彼女が神妙な面持ちで我が家にやってきます。
重たそうに口を開き、「わたし、塾を辞めようと思うの。」と言います。
あまりの忙しさに疲れてしまったのかと思いましたが、そういうわけでもなさそうです。
彼女はしばらく黙っていましたが、意を決したように話し始めました。
「実はね…最近オーナーから聞いたの。ライバル塾の先生が死ぬように仕向けたのは自分だって…。」
「?!」どういうことか意味が分かりません。だって彼らは病死したはずです。
「町に黒魔術師がいるのよ。うちのオーナーはこっそりそこへ行って、ライバル塾の先生たちを殺すよう依頼したんですって。かなりの額を積んだらしいわ。そこは本当に効果があるって有名な人なの。あっという間にふたりとも亡くなったでしょう?」
聞いたことのない話で驚きを隠せないわたしに、彼女はこう続けます。
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