見えないお客様
投稿者:懐炉 (9)
短編
2022/05/02
17:27
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これは私が古びたバーで働いていた時の話です。
その日は大雨の影響で客足が少なかったため、私以外のスタッフを早めに帰し、いつもより早く24時すぎにはお店を閉め、店内に一人残った私は月末の事務仕事をしていました。
一時間ほど経ったでしょうか。
私以外に誰もいない店内から「ギィ……ギィ……」という音が聞こえてきます。
その音は誰も座っていないカウンターの椅子から鳴っています。誰も座っていないにも関わらず、「ギィ……ギィ……」という、椅子に人の体重がかかるような不思議な音が繰り返し聞こえるのです。
その時!
「トゥルルル!トゥルルル!」
電話です。
電話の主はお店のオーナーからです。
「お客様がいるのに事務仕事なんかしちゃ駄目じゃないか、ちゃんと接客しなさい」
そのお店には防犯のために店内全体が映るカメラを設置していました。
その映像を見ながら電話しているようです。
「今、お客様はいませんよ。もう閉店していますし」
「何を言っているんだ。カウンターの一番奥の席に女性のお客様がいるじゃないか……あっ消えた……」
オーナー曰く、うつむいた長い髪の女が座っていたというのです。
後日、そのカメラ映像を見ましたが髪の長い女の姿がはっきりと映っており、オーナーからの電話がかかってくるとスッと消えてゆくのでした。
あの映像はなんだったのか今でも不思議でなりません。
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