十吉郎の生まれ変わり
投稿者:ぴ (414)
私の家には、先祖代々語り継がれている言い伝えがあります。
というのが「十吉郎の生まれ変わり」という伝承です。
昔昔、私のご先祖様は親戚から「十吉郎」という子供を引き取ったんだそうです。
とても賢くて優秀で自慢の子供になりました。
しかし、当時結婚していた奥方と死別して再婚することになって、その新しい奥方との間に子供ができ、その子を跡継ぎに据えることになったのだとか。
そうして最終的にいらなくなった十吉郎は遠縁に預けられたそうです。
十吉郎はどのように育ち、どのように亡くなったのか分かりません。
そのエピソードはまるで必要ないようにすべてスッポリ切り取られています。
ただ最後の死に目は酷いものだったらしく、その死に目に十吉郎は最後の力を振り絞るかのように恨めしい顔で言ったのだとか。
「生まれ変わったら一族すべて呪い殺してやる」と。
その話が我が家には代々受け継がれており、「十吉郎の生まれ代わりには気をつけろ」と伝えられているのです。
ご先祖の言い伝えというのをどこまで信じていいのかは分かりません。
先祖代々言い伝えられているというだけで、その話が真実とは言い切れないからです。
ただ私はそれを少し信じてしまっています。
なぜなら私自身に起こった、とある出来事のせいなのです。
私の祖父は若い頃は捕鯨船に乗っており、クジラが取れなくなってからは船を降りて実家の農業を継いでおりました。
性格も海の男という感じのガッチガチの亭主関白で、ガタイがよく気が荒いところがありました。
そんな祖父ですが、自分で言うのも何ですが孫にはとても甘かったです。
母や祖母にはとても厳しかった祖父ですが、孫の私は思い出そうとしても思い出せないくらい叱られたことがほとんどありません。
とにかく目に入れても痛くないくらい可愛がられて、私にとってはとても優しいおじいちゃんでした。
そんな祖父が孫の私が小さい頃に飼い始めたのが「十吉郎(とおきちろう)」です。
犬の十吉郎は真っ白な毛の堂々とした佇まいの犬で、気性は決して荒くはなく、むしろ優しかったと思います。
どうしてあの伝承の「十吉郎」と祖父が付けたのかは分かりません。
けれど祖母が「不吉だからやめて」と言っても、祖父はやめませんでした。
母が言うにはおじいちゃんは十吉郎の伝承を全く信じていなかったんだそうです。
悪ふざけ半分で付けたんだろうと苦笑いして言っていました。
私はおじいちゃんの家に遊びに行くと、必ず十吉郎を構っていました。
子供のときから犬が好きで、よく首輪を付けてしっぽを振って喜んでいる十吉郎と戯れていました。
私もぼんやり覚えている限りでは、とっても人懐こい犬だったように思います。
その犬がまさか家族に牙を剥こうとするだなんて想像もしていなかったです。
生まれ変わりねぇ・・・
ためはち