寝ずの番の禁忌
投稿者:だれパンダ (31)
短編
2022/03/20
11:42
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去年大往生した祖父が過去に体験した出来事です。
祖父が若い頃はまだ野辺送りが行われていました。野辺送りとは親族一同が棺桶を捧げ持ち墓地へと送る風習です。
さらにはお通夜の晩は線香の煙を絶やしてはいけない、親族の代表が寝ずの番をするなど、細かな決まりがありました。
ある時祖父のすぐ下の弟が亡くなりました。産まれた時から虚弱体質で、持病の悪化が原因だったそうです。
「俺が寝ずの番をする」
弟と仲がよかった祖父は、両親や他の親族をさしおいて真っ先に名乗りを上げました。他の人の目がない場所でたっぷり別れを惜しみたかったのです。親たちも祖父の気持ちを尊重し、寝ずの番を任せてくれました。
通夜の夜、祖父は弟が眠る棺桶に付き添っていました。線香が燃え尽きそうになるたび取り換え、煙が絶えぬように見張っていたのですが、葬式の準備の疲れから眠気が押し寄せてきます。
「寝ちゃいけない……寝ちゃ……コイツに付いててやらないと」
頭では理解していても睡魔に抗い難く、意識が暗闇に飲み込まれる寸前、声がしました。
「起きて、お兄ちゃん。食われるよ」
ハッと顔を上げると線香が燃え尽きる寸前だったので慌てて継ぎ足しました。
祖父が聞いたのは亡くなった弟の声だったのでしょうか。ならば何に食われるというのでしょうか……。
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