墓場の女の子
投稿者:繭 (42)
父のお墓参りに行った時の出来事です。
実家の墓は地元のお寺の境内にあり、先祖代々そこに眠っていました。入口で水を汲んだ桶と柄杓、花とお線香を持参して墓所に向かっている時、小さな女の子の姿が目にとまりました。
年の頃は4・5歳でしょうか、周囲に親御さんの姿は見当たりません。迷子だろうかと心配になり、優しく声をかけました。
「お嬢ちゃん近所の子?お父さんお母さんはどうしたの」
しかし女の子は反応を示さず、一心不乱に地面を見詰めています。聞こえなかったのかと疑ってさらに近付き、女の子の手元を覗き込んでぎょっとしました。
彼女は線香の灰を指でほじくり字を書いていたのです。
女の子が灰でしるしていたのは「まな」の二文字で、どうやらそれが名前のようでした。
「まなちゃんっていうの?ここはご家族のお墓?」
震える声でさらに質問した所、女の子は急にぴたりと止まり、哀しげな無表情で虚空を見詰めました。
「入れてもらえないの」
どういうことだろうと困惑した矢先、掃除中のご住職に呼ばれて振り返りました。
慌てて顔を戻すと既にまなちゃんは消えており、芯から震えが這い上がってきます。
「どうなさったんですか?」
怪訝そうなご住職に幽霊の存在を説明した所、彼は大きなため息を吐き、声を低めて教えてくれました。
まなちゃんがいたお墓には、生前まで愛人の娘の認知を拒んだ男が眠っているのだそうです。
「可哀想に、妾と娘は心中してしまったと聞きましたが……」
まなちゃんは今もまだ、お墓に入れてもらえずさまよっているのでしょうか。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。