存在しないはずの旅館
投稿者:足が太い (69)
職場の同僚から、「商店街の福引で当たったんだけど、良かったら使う?」と、旅行券を貰いました。
とある温泉地の旅館にペアで泊まれるらしく、せっかくならと思い、妹を誘って行くことにしました。
しかし、私達はその旅館で恐ろしい体験をしたのです。
問題の旅館は、電車もバスも通っていない、随分と山奥にありました。
民家も少なく、移動に時間がかかった為に到着した頃にはすっかり日が暮れていたこともあり、人通りもなく静まっています。
また、その日旅館に泊まっているのは私達だけらしく、従業員も少ないようで、館内もシーンと静まり返っていました。
「何だかおかしな場所に来てしまったね。観光スポットもないようだし」
「そうだね。温泉しかないみたい。まぁでも、都会の騒がしさを忘れてゆっくりするには丁度いいんじゃない?」
そんな風に妹と話しながら、ふと窓の外へ視線をやると、人影が動いたように見えました。
私達の泊まっている部屋は2階にあって、窓の外にはベランダがあるのですが、部屋の中からしか行き来出来ないのは先程確認したのでそこに誰もいるはずがないのです。
見間違いかなと思っていると、妹も「窓の外に誰かいたよね?」と言い出したので、どうやら見間違いではない様子。
怖くて怖くて、今すぐ部屋から出てフロントに駆け込んで助けを求めたかったのですが、見間違いならば恥をかいてしまうと思い、恐怖を我慢してそーっと窓に近づきました。
窓を開けずに、部屋の中からベランダを確認しましたが、誰も居ません。
やっぱり見間違いだったんだ、と思って窓に背を向けた瞬間、妹が「お姉ちゃん、後ろに男の人がいる!」と叫んだのです。
バッと勢いよく振り返ると、そこには、ベランダから部屋の中を覗きこむかのようにぺったりと窓に張りついた、大柄な男の人がいました。
男は顔中にヒゲがあり、プロレスラーのようながっちりとした体格も相まって、まるで熊のような出で立ちです。
怯えている私達をニヤニヤと笑いながら、「ハッハッハッハッ!美味そうだ!美味そうだ!どれから食ろうてやろうか!頭をもぎ取り腕をもぎ取り内臓をむさぼってやるぞ!」と、恐ろしい事を言い出しました。
妹も私も、もうパニックです。
2人してキャーキャーと大きな叫び声を上げながら階段を降り、1階にあるフロントへ駈け込みました。
しかし、フロントには誰も居ません。
それどころか、さっきまで女将さんや従業員の方の声や足音が微かに聞こえていたのに、それも全く聞こえないのです。
まるで私と妹以外、誰も館内にいないような気配の無さに怯えていると、2階から1階まで階段を降りてくるような足音が聞こえてきました。
さっきの男が私達を探しに、2階から降りてきたのかもしれない!
見つかったら何をされるか分からないので、妹と視線を合わせ、そーっと移動して1階の奥にある従業員用トイレに隠れることにしたのです。
スマホが手元にあれば警察を呼ぶことが出来たのですが、部屋に置いてきてしまったので連絡手段はありません。
隙を見て何とか旅館から逃げ出し、近所の民家に逃げ込んで助けを求めようということになりました。
妹とトイレの個室に入り、恐怖で声が漏れそうになるのを手で抑え、外の音を必死に拾っていました。
何分、何時間経ったでしょうか。
一向に足音は聞こえず、声も聞こえません。
誰も私達の隠れているトイレに入ってくる様子がないので、扉を開けて外を見て、あの男がいないようならそのまま走って旅館の外に出てしまうことにしました。
会社の同僚が仕掛人なのですかね。
交通手段は歩きかな?