万燈祭の夜に
投稿者:笑い馬 (6)
私の地元には『万燈祭』と呼ばれる祭がある。
その名のとおり、一万をこす数の明かりが行灯(アンドン)や提灯(チョウチン)に灯され、神仏への供物として並べられる。
「ほら、これが祭の詳細だ」私は友人のA君にパンフレットを渡した。大学で考古学を専攻しているA君は興味深そうにパンフレットを眺める。
「バントウサイ、それともマントウサイと呼ぶのかな?」とA君が尋ねる。「マントウサイと呼ぶらしい」と私は答えた。
祭の正式な名前は別に存在しているが、一般的には『万燈祭』という呼び名が広まっている。
大学の同期生であるA君はH県の出身であり、ここS県のことには詳しくない。大学の夏休みを利用して、S県を案内して回ろうと考え、『万燈祭』のことを私は紹介した。
「火を神さまに捧げる祭、それは日本全国どこでも見かけるありきたりなタイプの祭だね。万燈祭という名前も、まったく同名の祭りが日本中で行われている。だけど、一万という灯りの数はかなり多い。さぞ規模の大きい盛大な祭なのだろう」
素直に「面白そうだ」と言えば可愛げがあるのだが、A君には少しばかり気取った所がある。A君が一応の興味を示したので、私とA君は『万燈祭』に向かうことにした。
『万燈祭』は、『山岩寺』とか『山岩寺さん』と地元で呼ばれている寺の境内にて毎年開催されている。寺の本当の名前は別にあるのだが、すっかり通称の『山岩寺』の方が浸透してしまっている。
『山岩寺』は小さな山をまるまる境内に持つ広大な寺で、山の各所には石仏や磨崖仏がたくさん鎮座している。『万燈祭』では、これら石仏の一つ一つに行灯をお供えする。
行灯は和ろうそくに神様の火である浄火を移し、火が風でかき消えないように四方を和紙を張り巡らせたて作った囲いで覆って完成だ。
「ロウソクには願いを書き込むと叶う。私は恋愛成就と書いた」
「僕は学業成就で」と宣言して、A君はさらさらと自分のロウソクに筆を走らせる。
「相変わらずお固いな」と私が茶化すが、A君は気にもとめない。色恋よりも研究が大事なA君らしい願い事だった。
お堂の横には護摩木が組まれ、神様の火が天に向かって燃え盛っている。私とA君はロウソクに火を移した。
ロウソクを行灯に収納し、行灯を持って火が消えないように慎重に境内を歩く。
境内には数百の石仏が安置されている。
真新しいもの、苔むしたもの、ひび割れ欠損したもの。新旧さまざま、その石仏が制作された年代はバラバラで、保存状態もまちまち。
それらの石仏の中から、自分の気に入った仏さまを一つ選んで、行灯を供える。行灯を供えた仏さまは次の『万燈祭』までの間、守り神として行灯を捧げた人を見守ってくださる。そのように地元では信じられている。
「どの石仏にもすでに行灯が捧げられているね」
A君が残念そうに呟く。
「仕方ないさ。もう夜も深い。地元の檀家さんたちは捧げ終わった後だろう。今ごろ、石仏巡りをしているのは私たちみたいな観光客だけだ」
私はそう言って辺りを見渡す。
寺の境内、石仏巡りの順路には数えるほどしか人はいない。その数人も行灯を捧げ終わった後のようであり、いまだに行灯を手に持っているのは私とA君だけだと思われた。
「取っておきの場所を知っている。来てくれるか?」
私はA君の手を引き、順路から外れた所にある石段を上がった。
八十八段あると言われている石段を登りきる。
そこには木々に囲まれた小さな広場がある。
広場の中央には背の丈よりも高い石製の五輪塔。
そびえ立つ五輪塔のすぐ足元には高さ三十センチほどの小さな五輪塔が数十基、慎ましやかに控えている。
良かった
渡来人!
良い
でも血はA君のじゃなかったのか…A君は神隠し(のようなもの)?
怖い…とは違うけれど、物語としてとても面白かった。
面白かった。
興奮ポイントは少ない。が、脚色すれば何とでもなる。
つまり、元ネタとして使えそうな話