マンション
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
これは、知り合いのAさんから聞いた話です。
Aさんは、昔から念願だった高層マンションを買い、住むことになりました。
そこは、いわゆる新興のベッドタウンで、似たようなマンションがいくつか密集しているような所でした。
Aさんが買った部屋は12階建ての10階で、見晴らしも良くとても気に入っていたそうです。
住み始めて1ヶ月ほどの事です。
Aさんは、いつものようにベッドで寝ていましたが、夜中の2時か3時ごろに、ふと目が覚めてしまいました。
トイレで用を済ませた後、何となくベランダのカーテンを開け、夜景をぼんやりと眺めていました。
いくつかあるマンションの中、8階ほどのマンションの最上階のベランダに、男性が立っているのが目に入りました。
Aさんからは、男性を少し見下ろすような感じになっています。
「あの人も夜中に目が覚めたのかな」などと思いましたが、どうもその男性の様子が変なのです。
というのも、その男性はベランダの内側ではなく、外側に立っているのです。
さすがにこれは警察に通報しようか、と思ったのも束の間、男性はそこから飛び降りてしまいました。
Aさんは、男性が地面に激突しようとするのをただ見つめる事しかできませんでした。
ところが、男性が地面に届く直前で落下が止まり、まるでビデオの逆再生のようにベランダへと戻っていったのです。
Aさんは何か幻覚でも見たのではと思い、そのベランダをもっとよく見てみると、やはり男性が立っているのです。
男性は再びベランダから落ちていき、またベランダへと戻っていきます。
Aさんは金縛りにでもあったかのように、その場から一歩も動くことができず、視線も外すことができません。
その間、男性が落下して戻っていくという動作を何度も何度も繰り返しているのです。
そこで、Aさんはある事に気が付きました。
最初に見たときは、男性はベランダから地面を見下ろすようにしていたはずでした。
それが、男性がベランダに戻るたびに、顔が少しずつ少しずつ、こちらへと向いているのです。
男性の落下が、恐らく20回以上繰り返した頃、その顔が明らかにAさんに向いていたのです。
その顔を見た瞬間、男性とAさんは目が合ってしまいました。
思わず「うわあ!」と叫ぶや否や、あわててカーテンを閉め、ベッドにもぐりこみました。
頭から布団をかぶり、「何だ今の 何だ今の…」とガタガタ震えて、結局朝まで一睡もできませんでした。
それ以来、Aさんはベランダから景色を見ることができなくなったそうです。
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