腐臭、死臭、悪臭
投稿者:urchin (9)
これは、私が見た夢の話です。 同じ夢は一度たりとも見たことがないのに何年も覚えている二つの摩訶不思議な夢です。
一つ目の夢の中で私は、傍観者、もしくは主人公のような立ち位置でした。
ふ、と目を開くと目の前ではガキ大将のような体格の良い男子がこちらに怒鳴りつけてきています。
何事かと思えば、視点主であろう少年(以降私と表記します)の隣にいる黒髪の女の子を渡せ、といった旨のものでした。
少女(名前は聞き取れませんでした、目の前のガキ大将やその取り巻きらしきちびっこたちも。)は凡そ不快、ないし困ったような顔をして何も口にしていないというのにガキ大将はこちらの言葉も聞かず、どうしても渡さないなら○○(聞いたこともない名称でした)で勝負だ!と大げさに指をさして宣言をしてきます。
それになにか口をはさむ前に少女が「○○くん(私の名前でしょう)、お願い」と手を握るのです、それを見て猿のように顔を赤くしながらぎゃあぎゃあと喚き△△だとかいうスポーツらしきもので勝負をすることになったのです。
曰く、というか。数日後にちょうど大会があるからと、そこで対決をすることになったのですが、その△△とかいうスポーツはスノーボードに似ていました。専用のウェアを着て、高いところから滑り降りていくだけ。私とそのガキ大将のほかにも子供の影があり、ローカル性の高いものなのだろうとあたりがつけられる周囲の光景も相まって独特の雰囲気を醸し出す中で大会は始まりました。
結論から言えば私の勝利でした。ガキ大将の悔しそうな顔と大喜びの少女がいたことを覚えています。
その後、表彰やらが簡易的に行われたあと帰宅した先で、両親だと認識できる妙齢の男女や祖母や、田舎特有の縦横斜めのつながりのある親戚たちが、醤油樽のようなものに入った何かを、デッキブラシを使ってかき混ぜているのです。
その光景は異様でした、見たことのない顔もいますが、夢の中であることを考えればあり得る話です。 祖母の家に私たち一家が住んでいる形になっていたので古い木造建築の体をなした一軒家(というか当時私が住んでいた家や周囲の光景そのものだったのですが)で家中の窓や雨戸。扉も開け放って、一心不乱にその樽をかき混ぜています。
どうしたの、何してるの。言葉を掛けても返事はありません、憑りつかれたようにガシガシ、もしくは形容しがたい不快な音をたてて樽の中身は元々あった形をなくしていくようでした。
そこで奥から出てきた母親に、説明もなくあんたもやるのとなにがしかがくっついたデッキブラシを押し付けられ、新たに材料が入れられていく樽を指さされ。訳も分からず樽の方へ行こうとしたとき、もはやかきまぜるだけの機械と化していた親戚たちの一人の声が聞こえました。
「勝っちゃだめなのに……」
「勝ってしまったから」
だとか。
タイミング等を顧みれば、ガキ大将と競ったものだということの想定がつきますが、その時の私は親戚の大人たちの言葉よりもずっと気になるものがあったのです。
脚立に跨りながらでやっと見下ろせるそれは、樽の中に入っていたのは人間でした。もしくは元人間でした。全身の皮膚が禿げていて、眼球の有無はバラついた、赤い、半端に肉のついた人塊、人肉の加工途中のような光景。 今にも悲鳴が聞こえてきそうなほどぬるついた温度を持っているだろうそれと、一瞬目があいました。
ひぃ、なんて情けない声を上げてのけぞり、そのまま後ろに倒れこんだ私に向けられた目は酷く、非道く冷たいものでしたが、それにまた声を漏らすよりも早く、樽の中のそれよりも酷い汚臭悪臭腐臭死臭、嫌なもののオンパレードのような臭いのする肉々しい触手の形態をしたそれが直ぐそばの大人の首をごきんとへし折り、まるで雑巾のようにねじったかと思えば歯並びの悪い大きさも形もすべてバラバラな黄ばんだ歯で、スナック菓子でも食べているかのようにぽんと口に放り、バキバキごりん。
嫌な音をたてて喰らっていきます、そこから先は経緯が違うだけで。例えば首をねじ切られたり、家じゅうを呑み込めそうなほど大きな体で押しつぶしたりと集まっていた親戚の大人たちがどんどんと食われ殺されていきます。
赤黒く、ピンク色でもあって、嫌なにおいと惨状に口腔の奥から酸っぱさがこみ上げてきて、嘔吐をしそうになった瞬間、不意に腕を引かれました。そのまま坂を下りて(家は坂の中腹にありました)いった先で、ガキ大将と少女と、取り巻きの片方が私の目の前に立っていました。
何が起きているのかわかりませんでしたが、曰く、彼ないし彼女らの家でも似たようなことが起きていて、殊更酷いのは私と、ガキ大将の家だったそうです。ガキ大将の母親は目の前で化け物の姿になり果ててしまったと。
現時点では何もわからないし、正直理解したくない。けれど、何が起きていても、何もしないままでは死んでしまうといって、まるで少年漫画のような始まり方で決起することになった四人組(ご都合主義のような色をしています)は、まず何をしようかと話し合おうとして。
話している周囲がひどく暗いことに気付きました。 大会を行ったとはいえ、まだ食事時を過ぎたばかりなのにです。
上を見ました、天を仰ぎました、状況に似つかわしくない晴天の青空からどんよりとした雲が覆う曇天になっていた空すら見えません。見えません。ゆっくりと顔を上げた私たちの視界に飛び込んできたのは芋虫、もしくは百足のような体に、人面が不可思議な位置にくっついて、緑ががってどろついた粘液を垂らす触手を蠢かせる凡そ理解しがたい化け物でした。
化け物が何かをつぶやいています。お経でも唱えるかのように。よく聞くとそれは人の名前のようでした。
化け物が誰かを呼んでいます。○○ちゃあああああああああああああああん、ママよおおおおおおぉぉおおおぉおおおぉおぉぉぉおぉ
化け物の声が周囲にこだましたとき、私のすぐ後ろにいたガキ大将が震えた声を上げました。
「母ちゃん……?」
その声を皮切りに、狂気が垣間見える惨たらしく醜い笑顔を浮かべたそれが、こちらに触手を伸ばしていました。
夢の話は終わりです。ガキ大将の悲鳴と断末魔を、こちらに伸ばされた手を今も覚えています。
夢で匂いがあるなんて珍しいですなぁ。
冒頭の○○と△△ごちゃ混ぜになってませんか?