一人になれないホテル
投稿者:美樹本 (5)
以前働いていたホテルのひとつでの出来事です。
そこは新しい小さなホテルでコロナ禍で予約も少なく、基本的には2人程度のスタッフまわしていました。そして夜勤スタッフは、「ここは出る」と皆言っていました。夜の仮眠中にドアをノックされたり、部屋で物音がするそうです。
しかしお客様からのそのようなクレームや噂は全くなく、私は日勤なので特に気に留めてはいませんでした。
ある日、事務所で一人で事務作業をしていました。書類を床に落としてしまい、椅子に座ったままかがんで拾おうとした、その時。スラックスに革靴の男性の足元がみえました。誰か交代のスタッフかマネージャーが来たかと思い顔をあげましたが、誰も居なかったのです。一瞬のことで、勘違いと思うことにしました。
それから数日が経ちました。そのときはお客様もおらず、私はフロントカウンターで一人、事務仕事をしていました。
小さな音でBGMが流れるだけの空間で、仕事に集中していたそんな時でした。
「すみませーん」エレベーター付近から、女性の声がしたのです。私は返事をして足早にフロントからロビーを抜け、エレベーターホールへ走りました。
しかし、またもそこには誰も居ない…と思ったその瞬間でした。目の前のエレベーターの扉が開き、休憩に出ていた男性スタッフが戻ってきたのでした。
「女の人…居なかった?」そう問うた私は、ただ呆然と立ち尽くしていました。
以降は私には何も起きませんでした。しばらくして全く違う理由で私はそのホテルを離れましたが、何度思い出しても、あれは決して気のせいではありません。
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